最強の敵は幼馴染
ようやくここまで来た。長く、そして過酷な旅だった。多くの苦難を乗り越え、ついにたどり着いた魔王の城。その最奥、魔王の扉に手を掛ける。
「準備はよろしいですかな?勇者さま」
お決まりのセリフを言うのは参謀役の賢者だ。
「あぁ、もちろん。準備は万端。装備も万全。仲間も完璧。全てが十全にそろった状態だ。これで負けたら嘘ってもんさ」
「ふふっ、流石は勇者様。自信たっぷりですわね。その勇猛さに何度救われた事か」
そういうのは弓使いだ。
「さぁ、進みましょう。我々の勝利のために、無辜の民草の為に」
そう俺の背中を押してくれるのは神官だ。
「…行こう」
扉を開け放つ。
そこにいたのは
「待っていたよ、あーくん」
幼馴染のユークリウッドだった。
「な、なぜ、お前がここにいる、ユークリウッド」
そこにいたのは同じ村、同郷のユークリウッドだった。
「ふふふ、なんでって?そんなのきまっているじゃない。それは私が“ラスボス„だから」
「お前、お前が世界をこんなに歪めていたのか⁉モンスターを使い、人々を苦しめ、虐殺を繰り返し、世界をわが物としようと、そんな事をしていたのか?」
「そう、そうね。確かに。私は‟世界„を手に入れる為に全てを敵に回したわ。そう、望むものを手に入れるために。私は最善を尽くした。だから貴方の目の前に立っているのかもしれないわね」
「っ…。お前は…。お前は‼そんな事をする奴だと思っていなかった‼優しくて、平等で、慈愛に満ちていて…。世界を敵に回すような奴では…」
「…勘違いね。そう。勘違い。私はそんな貴方が思うような女ではなかった。それだけの事よ」
「もはや、お前が何者であろうとも引けはしまい。例え幼馴染であろうとも。例え…。」
「世界を敵に回したから、私は世界の敵だから?」
「あぁ、その通りだ」
「なら、私の目的は達成されたのね。あぁ、あぁ、嬉しい。こんなに嬉しいことはないわ」
ユークリウッドは恍惚な表情をし、両の手を顔に当てる
「…行くぞ‼」
自らの剣を抜き放ち、仲間たちもそれぞれ戦闘態勢に移行する。
さて、ここで問題だ。俺は幼馴染のユークリウッドに打ち勝つことが出来たのか。単刀直入にいう。答えはノーだ。俺は確かに勇者だった。手の甲に紋章も浮き出たし、伝説の武器も手にして、最高の仲間を手に入れた。ただ、ただ選択を間違えた。今思えばそれだけだったのだと思う。