Count 5 Boy meets Girl so power.
勝利のVサインをきめて「にひっ」と笑う巫子芝だったが、ふと爪が割れているのに気付く。唾つけとけば治る? そんな訳にいくか。ここからなら保健室より化学室のほうが近いか。芹沢先生にハイドロゲンプロキサイドを分けて貰うか。
化学室の前を通るとちょうど芹沢先生がいる。窓をノックして「ハカセ~」と声をかける。
「それはやめろ! こっちも【ジ・エンド】様って呼ぶぞ?」はい、勘弁して下さい。……でも何で眼帯なんだよ? 遅れてきた厨二病か。「ほっとけ!」
化学室の椅子に巫子芝を座らせて、薄めた過酸化水素水で爪を消毒する。思わず手を握ってしまったが、今は気にしている場合じゃないと自分に言い聞かせる。くっ、鎮まれオレの鼓動!
「円東寺クンも嫌だよね? ケガばっかしてる女の子なんて……」
そんなところに巫子芝が小さく呟く。顔を見れば今にも泣き出しそうだ。
急にどうした? 誰かにそんなふうに言われたのか?
「うん。ママにそんなんじゃお嫁に行けないわよ、だって。ご、ゴメンね、急に変なこと言っちゃって! もっと普通に女の子らしいことしてなさい、だって……でもそんなに大事かな? 普通って」
何を言ってるんだ? この小さな拳は巫子芝が積み重ねた努力の成果だろう? それを否定する? その苦しさや痛みはオレもよく知っている。思わず怒りがこみ上げてくる。
気にする事ないぞ。普通の女の子? オレはそんなのに興味がないし、それ普通につまんないって事だからな。
「ほ、本当に? 本当にそう思ってる?」
言葉に反応して巫子芝が驚いたようにオレを見る。そ、そんな破壊力のある濡れた瞳で見られたら顔に穴が開くだろうが! と、とにかく……
好きな事を好きなだけ好きなようにやればいいんだよ。普通なんてのはあきらめた奴、足を引っ張りたい奴の常套句だ。……まあ、ぼっちのオレが言っても何だけどな。
「で、でも! それにボク、【三なし】なんて変なあだ名で呼ばれてるし……」
そうか? オレは中学の時、【ジ・エンド】って呼ばれてたんだぜ。
「え、そうなの? な、何かカッコい……」
すげえダメダメだろ? 気づいた時にはもう手遅れ。ショッピングモールの店内放送で【ジ・エンド】様~なんて呼ばれたりなんかしたら、その場で全力で床に叩頭礼する勢いだよ。
「ヤダその動き! うぷぷっ、笑っちゃダメッ! ダメなんだけど!」
……ふっ、自虐ネタだがようやく笑ったな、巫子芝。
今更どう見られたって構わないだろ? 世の中やったもん勝ちだよ。歴史は常識じゃなく勝者が創作っていくんだからな。……まあそれに、好きなことに打ち込んでるやつは、オレは嫌いじゃないから。
「ほ、本当に? ウソじゃないよね、円東寺クン!」
巫子芝が立ち上がる。な、何だよ急に!
嘘つく必要はないんじゃないか? オレの今の率直な気持ちだ、信用してくれ。少なくても同情なんかじゃない。
「え、円東寺クン! ありがとう、キミは……キミって人は!」
巫子芝がオレの胸に飛び込んでくる! おい、子犬じゃないんだから! そんなにグリグリ頭を押し付けちゃいかんだろ!
芹沢先生が「青春だねぇ~」なんてしみじみ言う。まだいたのかよ! とっととメシ食いに行けよ!




