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M-Zero7 そして、ボクは巫子芝安里になった。

「数は引き分けか。10人くらい逃げちまったしな。でもラスボス倒したのはおれだから、おれの勝ちでいいよな?」

 あっクンはそう言うけど、ナッシーは土下座してるのをむぎゅって踏んだだけじゃない。カウントしないから。

 その夜の帰り道。自転車を押して歩いて帰る。夜風がちょうどいい。

 それより口止めできなかったせいで、逃げたやつに顔バレしてしまった。

 ほ、報復とかされたらどうしよう。ボク、か弱い普通の女の子なのに……。

「おい、説得力ゥ! 大丈夫、あいつらにそんな根性ねぇよ。気にするだけ無駄だって」

 あっクンが自販機の前で足を止める。え、じゃんけん? ぽん。は、はじめてあっクンに負けた!

「道場じゃねぇからな。あんたのおごりでヨロシク。スポドリな」

 そ、そうきたか! ……まあそれでも負けれたから良しとするか。


 次の日の朝。道場に来たあっクンに、今度の日曜に家に来てくれと頼まれた。

「おれを悪の道に誘う【三なし】にガツンと文句を言ってやるってママが聞かねぇんだよ。悪い、後でメシおごるから」

 イヤイヤイヤ、そんなので騙されないよ? お説教されるんでしょ? う~ん、

だったらお寿司でもいい?


 日曜日。朝にあっクンと待ち合わせて巫子芝家に行くと、そこは郊外の小高い丘にある瓦葺きの平屋だった。離れの道場もきれいに掃除している。「おれがやってんだよ」ってあっクンが言う。

 玄関から上がって、茶の間で手をついてご両親に挨拶する。

 アンリと言います。ご迷惑をおかけしました。

 そう言うと、あっクンのパパとママは無言で顔を見合わせた。

「アンリちゃん? ええと……篤俊、【三なし】とかいう悪い先輩はいつ来るの?」

「何言ってんだよ、ママ。こいつがその【三なし】だよ」

「え? こいつ、って……篤俊! 女の子に何てこと言うの!」

「ど、どういう事なんだ? おい、篤俊!」

 パパさんもママさんもパニクってる。あー、やっぱりそうなるよね。もーっ、あっクンも最初に言っといてよ! 自分で名乗るのすごく恥ずかしいんですけど!


「迷惑かけてごめんなさいね。うちのがまた馬鹿やったらガツンと言ってやって良いからね」

「ちょっとママ! それじゃ言ってることがあべこべ……ちょ、無視かよ!」

「アンリちゃんは外国の方なの? あら、お箸も上手に使えるのね。わさびは大丈夫? ご家族は? 今はおばあさまとふたり? いろいろ苦労したでしょ」

 ボクはママさんの隣でお昼をご馳走になりながら質問責めにされてる。何だろうこの状況、ちょっとよく分からない。でも梅寿司ここのお寿司はおいしいです。もぐもぐ(現実逃避)。


  後で聞いたら、あっクンにはひかりさんっていうお姉さんがいたんだけど、春に就職で東京に出てしまったから、ママさんは女の子がいなくなって寂しかったんだって。

 午後は2階で着せ替え大会。ママさんはひかりさんの服をひっぱり出して、あれも着てみてこれも似合うって大はしゃぎして、「お古だけど好きなのがあったら持って行って良いからね」って言ってくれる。

 そのあとパパさんとも話をして、道場で少し組み手をやった。ボクの技を確かめながら、自分の技を教えてくれる。迷いがなくていい突きだと誉めてくれた。

 夕飯も食べていきなさいというのを断ってその日は帰ったけど、最後に「またいらっしゃい」ってママさんにハグされた。


「どうせならうちの子になっちゃいなさいな。それがいいわ、そうしなさい!」

 そんなある日、ママさんから爆弾発言が飛び出した。

 えっ、どどうしてそうなっちゃうの?

 その日はばあちゃんが改めてお礼を言いたいと、ボクと一緒にを巫子芝家を訪問した。

 ばあちゃんは今でも外国・・で食料支援のボランティアをやっている。近々また出かけるつもりだと打ち明けた。そしてボクがその間はおじいちゃんの所にお世話になるつもりだと言ったときに出たのが、ママさんの「うちの子」発言だった。

「私も歓迎するよ。遠慮なんてしなくていいから」

「あきらめろよ、姉ちゃん(・・・・)。こうなったらママは絶対折れないぜ」

 パパさんもあっクンも笑っている。聞けば初めて来た日から、ママさんはずっとこんな調子だったらしい。

 それとあっクンがボクを姉ちゃんって呼ぶようになったのは、ママさんから「あいつとかこいつとかじゃなくて、アンリお姉ちゃんって呼びなさい!」って言われたから。でも名前を呼ぶのは抵抗があったらしく結局姉ちゃんになったけど。

「そりゃ願ったり叶ったりだけど……そうかい。ありがとう、恩に着るよ。これで私も心おきなく……」

 そう言ってばあちゃんは巫子芝家のみんなに深々と頭を下げた。

 泣いてない? と聞くと「ボサッとしてないでお前も頭を下げな!」って頭を強引に押さえつけられた。その手は少し震えていた気がする。

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