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M-Zero4 It's a strange ceiling……

 ボクは朝の涼しい空気を感じて目を覚ました。青畳の匂いがする。

 そこは12帖の和室だった。開かれた障子から、縁側ごしに整った庭が見える。

「やっと起きたか。よだれ垂らしていい気なもんだよ、この台風娘は」

 こつんとゲンコツを貰ってそっちを向くと、そこに織江ばあちゃんが座っていた。

 あれ? ばあちゃん、いつの間に。

「あれ? じゃないよ、まったく。一般人(ひと)が危ない事はするなって言っただろ。死人が出るとこだったよ」

 どうなったのかは今ひとつ覚えてない。途中で後ろから木刀で殴られて意識が飛んだ。そこでリミッターも一緒に吹っ飛んじゃったみたい、たぶん。

「クズがどうなろうと知ったこっちゃ無いけどね。まあ誰も死んで無いから、そこは安心おし」

 そうか……よかった、やりすぎなくて(・・・・・・・)。そうだ、あゆみちゃんは! エビルは?

「あの子たちの事は忘れな。もう会いたく無いんだとさ。中学がっこうもしばらく来なくていいって言われたよ。あんたが悪いわけじゃないのにね」

 ううん、しょうがないよ……。いつものコトだし。うん……

「まあ郷に入りては郷に従えなんて簡単に考えてたあたしが浅はかだったよ。堪忍しておくれ」


「おっ、目が覚めたか? 腹はへってないか? ん?」

 そう言いながら現れたのは道着を着たおじいちゃんだった。声がよく通る。

 朝稽古だったのか少し汗をかいている。それでも息が上がった様子はない。

「お前さんが凡流斎ボルティスの弟子か? その年で大したもんじゃ。ああ、見れば分かる。どうだ、飯を食ったら儂と立ち会うてみんか?」

「いい加減におし! 昨日の今日だよ。何言ってんだい。本当にそういう所はあのジジイそっくりだね。呆れてものが言えないよ」

 ばあちゃんの一喝におじいちゃんは笑って頬を掻く。

 それがボクとおじいちゃん、長伝寺陽堂先生との出会いだった。


 夕方、涼しくなった道場でボクはおじいちゃんと向き合っていた。

 外の車の音が遠くに聞こえる。磨かれた床が正座した脚にひんやりと気持ちいい。

「お前さんは強いな。ん? 負けないから死ななかった? そりゃそうじゃ。しかしそんな生き方はつまらんと思わんか? 本当に強い奴というのは勝ちたいときに勝ちたいように勝ち、負けたいときに負けたいように負けられる奴じゃ。言ってみれば好きに生きられるということよ」

 そう言っておじいちゃんは楽しそうに笑った。死にたくないから強くなる。それじゃ駄目ってコト?

「今の日本にそんな奴は滅多におらんよ。技を競うことを楽しみ、心身を高め合うことが今の武道に求められる姿じゃからのう。だから負けることも許されるし、命のやり取りも必要ない。気に入らんか?」

 そうじゃないけど。負けてもいいって、戦うのが楽しいってどういうコト?

「それはこれから知っていけばいいじゃろ。そう言えば、さっきの子らと遊んでみてどうじゃった? ちゃんと負けられた(・・・・・)か?」


 午前中、小学生の稽古をなんとなしに見ていたとき。突然2人ひと組になってのジャンケンが始まった。だけどそれは勝ち抜けではなく負け抜け。負けた方が次に進み、5人抜きした子から座っていく。いつまでも残っているのは勝った方だ。

 2回目にはボクも言われて参加したけど、何故か負けられない。相手が何を出すかは読めてるのに。

 そして結局時間切れ。「お姉ちゃん、全然負けないんだね」って最後に笑って言われたけど、それ誉めてないよね? 思い出すと何かくやしい。

「あれも稽古じゃよ。勝つというのは意外と厄介でな、負け馴れていない人間は勝負を怖れて逃げたり、どんなやり方でも勝てばいいなどと思ってしまうんじゃ。勝ちパターンに固執して技を工夫しなくなるというのもあるな。……じゃがな、それじゃあ人は成長せん」

 負ければボクももっと強くなれるってコト? よく分からないんだけど。

「それはお前さん次第じゃよ。人が成長するとは変わるという事じゃ。

 ……凡流斎じゃが、お前さんと暮らしてからあいつはよく笑うようになった。あの悪鬼と怖れられた男がじゃよ? 最初会ったときは自他に厳しいばかりの男じゃったが、お前さんがあいつを変えたんじゃな。

 ……人との出会いは人を変える。ならば今度はお前さんが変わる番じゃろ。【拳狼】が育てた狼の子がどうなるのか、儂も見てみたいしのう。

 どうじゃ? しばらく中学に行けないんじゃったら、ここに通ってみんか? 織江さんとこよりうまい飯を食わすぞ。おっと、こりゃ失言失言」

 そう言って笑うおじいちゃんに、ボクはふいに師匠じっちゃんの顔が重なって見えた。

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