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M-Zero3.1 戦いまっくって、日が暮れて(長伝寺達磨)

 傷のもたらす熱のせいか、私は夜風に当たりたくなってふと道場に足が向いた。

 あの子もようやく落ち着いて今はただ眠っている。傍目から見ればただの可愛い女の子なのにねえ。

 道場には先客がいた。縁側の柱に背中を預けて座り、タバコをふかしている。

 ここは神聖な道場よ。タバコはご遠慮願いたいんですけど。

 私がそう言うと、彼女はちらっと目を向ける。

「こいつはタバコじゃないよ。ハーブを練り合わせた精神安定剤さ」

 そう言って彼女、オリエベルはふうと煙を吐いた。

 似たようなもんじゃない。まさか違法なやつじゃないでしょうね?

「今更何の法だい。黒白を人に決めてもらうほど耄碌しちゃいないよ」

 彼女はそう言うと、盆の上の酒を手に取る。ダークラムらしい。

 別のグラスについで差し出すのを受け取り、私も向かいの柱にもたれる。

 月を見ると、群雲が薄く漂っている。座るのはちょっと億劫だ。ギプスをつけているせいで。あー酒が浸みるわぁ。


「あんたらにゃ礼を言わなきゃならないね。『あれ』になったあの子の体力が切れるまで、よく付き合ってくれたよ」

 まあそのせいでこのザマだけどね。骨折なんて何年ぶりかしら。まあ他の【影】の奴らも最近天狗になってたからね。病院送りにされるのもいい薬でしょ。

「だったらまだいいほうさ。ジジイなんか初っぱなに片目にされちまったんだ。『どっかの腹ぺこが焼いて食っちまった』なんて笑っちゃいたがね」

 自分より強い奴にしか興味が無いとうそぶいていた【拳狼】ボルティス。その最初で最後の弟子があの子なんて。……末恐ろしい子ね。

「怖がってばかりじゃ困るね。あの子を預かる以上は腹をくくってもらわないと」

 でも、どうしてオリエベル(あなた)じゃ駄目なんです?

「最初はなんとかなると思ったさ。『あれ』を抑えるためにディグレ草も食わせてみた。でも駄目だね。今日みたいにどっかで反動が出ちまう」

 【食医の聖女】の薬膳でも?

「よしとくれよ。あたしゃ誰も行きたがらない戦場で炊き出ししてただけのババアだよ。まあそのせいであの子を預かる事になったんだけどさ。……ようやく分かったんだよ。あの子に必要なのは読み書きじゃなくて、もっと根っこの部分なんだ。ジジイやあたしじゃ手本にならない。あたしらはそもそも生き方が埒外、一歩間違えば○チガイだ。あの子にはそうなって欲しくないのさ。生き抜くために(・・・・・・・)獣をどう仕留めるかだけじゃなく、真っ当に金を稼いで買った肉を気の置けない友達と分け合って食べる。そんな人間らしい暮らしをあの子に知ってもらいたいんだよ」

 人間らしく、ねえ。私にはぬるすぎて、この世の中がそんなにいいものだとも思えないんだけど。

「善し悪しは別にしても、世間とか常識とかいう集団いきものが、刺さった異端とげを放っておけないのさ。そのためにこうしてあんたらに頼むんだ。あの子が世の中と折り合いつけて生きられるようにしてやっとくれ。世捨て人(ておくれ)になる前にさ」

 そう言うとオリエベルは居住まいを正して頭を下げた。

 ち、ちょっと、そんなことされても困るわ! ……分かったわよ。私は【影】だから顔を合わせられ無いけど、兄貴や偉いさんによく頼んでおくわ。

「ああ、恩に着るよ」 

 その後はグラスが空になるまで、刻々と姿を変える雲を二人で眺めた。

 だけど一つ問題なのは、次も私があの子を止められるかどうかってことね。……うーん、自信無いわぁ。

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