ひな祭り
「火筒でクイーンにアタックします」
「盾で防ぐわ」
「それは、扇では?」
「なんで指揮官が戦場で扇を持つのよ、指揮錫かしら?」
「クイーンは火筒が無効ですか?」
「安心なさい、盾はこれで壊れたことにしましょう」
*
陸軍の執務室。若き女性司令が色鮮やかな人形を前にしている。
「お父様からプレゼントを貰ったわ、異国より取り寄せた物らしいの」
「おや、これはひな……」
「私ね、これが何か考えてみたのよ。これは私達の事じゃないかしら!?」
「……伺いましょう」
女雛を手に取る。
「これが私」
「綺麗ですね」
「……あなたはそうね、これかしら」
五人囃子から横笛を手にとった。
「こちらの剣を持った立派な武人ではなく?」
「私ね、あなたの笛の音が好きなの」
「ありがとうございます」
「さっそく、並べてみましょう」
「司令は上のほうですね」
「当然ね」
「私は一番下ですね」
「そうよ」
「それで、これは何をあらわしているのですか?」
「よく見なさい、武装しているでしょ?」
「たしかに」
「これは軍事教練用のコマね」
「囚われの司令を助けに向かう私、では無いのでしょうね」
「丘の上に要塞を構える私にあなたが挑む構図よ」
「真っ赤な丘ですね」
「壮絶な戦いだったわ」
雛道具を指して。
「随分と食料品が多いですね」
「食べるもの無しに戦争は出来ないわ、兵站を想定した教練ね」
二段目の女雛を指し示す。
「なぜ司令が最上段ではなく、他の女性が居るのです?」
「あなた、私をバカにしているの? 女官を私より前線に出すわけ無いでしょ」
最後に箱に入れたままの男雛を指した。
「あの立派な将軍は使わないんですか?」
「まだ使わないわ」
*
「私の勝ちね!」
「その扇が火筒を防ぐ盾だとは思いませんでした」
火筒ではなく小鼓だった。
副官をあらわす五人囃子の横笛を取られてしまった。
「そういうわけで、これは捕虜にします」
「待遇の改善を要求します」
「まかせなさい、この私を追い詰めた武人を無下にはしないわ。その手腕を高く評価し、重用します」
司令は男雛と取り替えると最前列に添える。
「ほら、こんなに立派になったわ、前線指揮の将軍よ悪くない待遇でしょう?」
どうだろう?
悪くはないかも知れない。
しかし、副官は脇に置かれた横笛を手にする。
「私はこの笛持ちで十分ですよ」
女雛の一つ下の段に置いた。
女雛を護るように。
ここが良い。
しかし、それをひょいと司令が持ち上げてしまった。
「あなたってばもっと野心を持ったほうがいいわよ」
そう言って、人形を起き直す
副官がそこで良いのかと視線を送るも、司令はきょとんとした顔を返すだけだ。
「ん? なに?」
「いえ、なんでもございません」
横笛は女雛に寄り添っていた。
つづけ




