仕事と私どっちが大事なの?
「仕事と私、どっちが大切なの?」
陸軍の執務室。美貌の司令が副官に問いかけた。
彼女はまだ士官学校を出たばかり。書類整理中、突然の質問だった。
その表情は片口を上げて笑っている。
「にやり」
「わざわざ口で言わなくても、意地悪な感じが出ていますよ」
「ねぇ、仕事と私、どっちが大事なの?」
副官がコーヒーの用意を始める。
「コーヒーに砂糖はいらないわ」
「良い蜂蜜が手に入りました。ためして頂けませんか?」
カップから、ほんのりと甘い香りが漂う。
「それで、いったいその質問は何でしょうか?」
「知らないわ。でも、セックスする前に言うらしいのよ」
「世の女性には、返答を間違うと喧嘩になりそうですが?」
「仲直りセックスというものがあると聞いたわ」
副官が司令の机の端に手を置く、そのままゆっくりと机の上を払った。
書類が脇に寄せられる、しかし床に散るような事は無い。
「では、まず喧嘩をしなくてはなりませんね」
机に身を乗り出し、顔を司令に寄せ耳元で囁いた。
「なによりも司令が大事ですよ。いざとなれば、全てを放り出して司令を連れて逃げます」
一瞬の静寂。
そして、司令の頬が真っ赤に染まる。
「貴様!それでも!」
司令が、わなわなと身を震わせる。
「気をつけ!」
副官はさっと直立不動の姿勢を取る。
司令は机を土足で乗り越え、副官の正面に降り立った。
パンッと平手打ちの乾いた音が執務室に響く。
「軍人か!?」
机の上の書類が汚れることは無かった。
コーヒーも静かに香りを漂わせる。
「見損なったぞ!」
副官は直立のまま敬礼をする。
「失礼いたしました!」
副官を見上げる司令の目には、薄っすらと涙が浮かぶ。
表情こそ半泣きのまま、流れる様な手捌きで腰から短剣を抜き放ち副官の首筋に添えた。
副官は直立の姿勢を崩さない。
「安心しろ、上官として直ぐに後を」
そこまで言って、はっと一連の流れに気づいた。
司令の顔は青ざめ、また直ぐに紅潮する。
「す、すまない。私を怒らせるために心にもないことを言わせてしまった」
殺そうとした事より、副官の軍人としての矜持を傷つけた。
それを何よりも謝りたいと思った。
「いえ、ご命令に副官として従ったまでです」
「し、仕事。仕事をしよう」
シュンとしながらが机を迂回する。
その間に副官がポケットのハンカチで机の上に付いた足跡を拭き取った。
書類を元の位置に戻す。
「仕事は大事だよな」
「はい。司令の言われる通りです」
「だが、上官の命令とはいえ嘘はつきたくないものだな」
「はい。これからも嘘をつかないように致します」
司令は執務机、副官が壁際の小さな机。いつもの定位置だ。
「仲直りしたよな?」
「はい」
「もう怒ってない?」
「ええ、怒っておりません」
「よかった。仕事頑張ろうな!」
「はい、そう致しましょう」
「いったいぜんたい、これでどうやったらセックスに繋がるんだろうな?」
「見当もつきません」
つづけ
このシリーズ初になる「真面目に考えて書いた」話となります。
これまでと同じような雰囲気が出ているか心配です。
いかがでしょうか?
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