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シャルルとアヤ

第一章 8 です。

伝わっていないかもしれませんが、ふたりは野原で椅子に座ってお茶を飲んでいます。

テーブルを間に挟んで向かい合っています。




 シャルルは小さい頃から大人びていると言われていた。

 他の子供のように好き勝手に振舞うことは少なく、いつもいい子であろうと努める。

 だがそれは前世の記憶を持っていて、処世術が使えたからではなかった。

 シャルルに前世の記憶はない。

 シャルルはこの世界の記憶しか持たないシャルル・アルスロットという人格を12年かけて作った。

 そして呪いを受ける。

 発動する前の呪いなら、シャルルは解除することが出来た。

 シャルルが持つ属性の一つである闇の魔力は光属性以外の属性の魔法を無効化出来る。

 呪いは光と闇を除いた4つの属性のどれかの力をベースにしていた。

 発動前なら、闇属性を持つシャルルが恐れる必要は無い。

 だが今回、シャルルが呪いに気づいたのはそれが発動してからだ。

 何故かその存在をシャルルは発動するまで感知することが出来なかった。

 発動した呪いは術者本人にしか解けない。

 術者を殺しても呪いは消えるが、どちらにしろ呪った相手を突き止める必要かあった。

 呪いにかけられたことに気づいたシャルルは、術者を突き止める時間を稼ごうとする。

 発動した呪いを自分の中で封じ込めようとした。

 しかし、その時点ですでに呪いの力はシャルルの身体を侵食している。

 切り離すことは出来なかった。

 そこで、シャルルは妥協案を取る。

 侵食された部分を切り離し、自分を二つに分けることにした。

 すると、切り離した自分は別の自分になる。

 つまり、前世のわたしだ。

 切り離した自分が別の意識と人格を持っていることにシャルルは驚く。

 だが、原因を究明したり対策を考える余裕はなかった。

 とにかく、シャルルは呪いを全て自分が引き受けると決める。

 何故なら、呪いはシャルルとわたしを別のものと認識していた。

 シャルルを覆いつくし取り込もうとするのに、わたしには見抜きもしなかったらしい。

 自分の身体をわたしに任せることで、シャルルは呪いから自分の身体を守ろうとした。

 わたしが12歳の男の子として目覚めたのにはそういう経緯があったらしい。


「なるほど」


 わたしは納得した。


「つまり、わたしの人格をベースとしてシャルルの人格は作られていたのね。シャルルという皮をべりっと剥いたら、中からわたしという実が出てきたってことでしょ?」


 みかんを実体化し、その皮を剥きながら説明したのだが、あまり伝わらなかったようだ。

 シャルルは微妙な顔をする。


「その言い方はなんか嫌」


 不服そうに口を尖らせた。

 それが可愛くて、わたしはにやけてしまう。

 美少年との会話は内容がなんであっても楽しいと知った。


「お前、怖い」


 シャルルはどん引きする。


「お前って呼び方は止めて。せめてアヤって呼んでよ」


 わたしは前世の名前がアヤコだったことを話した。


「アヤか」


 シャルルは初めて知ったという顔をする。


「わたしはシャルルの記憶をたぶん持っているんだけど、シャルルにはわたしの記憶はまったくないの?」


 わたしは尋ねた。

 互換性があると思っていたが、一方通行らしい。


「わからない」


 シャルルは首を横に振った。


「とりあえず、アヤのことで思い出せることは何もない」


 正直に答える。


「そうなんだ」


 わたしはちょっとほっとした。

 知られて不味い記憶は特にないが、知られたいわけではない。


「ところで、呪いって赤い霧みたいなやつのこと?」


 ずっと気になっていたことを確認した。


「そうだ。何故か、今は消えてしまっている」


 シャルルはきょろりと辺りを見回す。

 不思議そうな顔をした。


「あれね、掃除機でわたしが吸っちゃった。今は紙パックに入れて壷に詰め、さらにビニールの袋に入れて木箱の中で保管しているわ」


 わたしが説明すると、シャルルは眉をしかめる。


「意味がわからない言葉もあるが、アヤが封じたことはわかった。それで動けるようになったのか」


 とりあえず納得してくれた。


「じゃあ、シャルルに身体を返しましょうか?」


 わたしは尋ねる。

 シャルルみたいな美少年として生きるのはワクワクするが、本物のシャルルに身体は返すべきだろう。

 わたしの人生は終わっているのだ。


「それが出来るならとっくに返してもらっている」


 シャルルはため息をいた。


「どういうこと?」


 わたしは首を傾げる。


「呪いは封じられたが、解けたわけではない。僕は呪いにかかったままだし、力も使えないようだ。今の僕は牢獄に閉じ込められた囚人のようなもので、出たくてもこの場所から出られない。意識はあっても、意識と身体が繋がっていないんだ」


 シャルルの言葉に、わたしは渋い顔をした。


「それはわたしが繋がっているから戻れないということ?」


 確認する。


「いや、違う。呪いが僕の意識と身体が繋がるのを邪魔しているんだ。呪いが解けないと、身体を取り戻すことが出来ない」


 シャルルは説明した。


「今の僕はこの意識の世界にさえ干渉出来ないんだ。アヤはイメージしたものを簡単に実体化出来るけど、僕には何一つ自由に出来ない」


 呟きながら両手を構える。

 見えないバスケットボールを両手で持っているに見えた。

 そのボール大の空間に何かを出そうとしているのだろう。

 だがそこには何も現れなかった。

 諦めたように、シャルルは手を下ろす。

 自分の無力さに凹んでいた。

 わたしは慌てて話題を変えようとする。


「じゃあ、シャルルはずっとここにいるの?」


 質問した。


「どこにも行けないので、そうなる。アヤが見るもの聞くもの触るもの、同じように認識できるけど、ただそれだけだ。こちらからは何も出来ない」


 苦しげな顔をする。


「でも、さっきみたいにわたしと話は出来るのでしょ?」


 意識がある時、呼びかけてきたことをわたしは持ち出した。


「ああ。話すだけならできるよ」


 シャルルは微笑む。


「そう、良かった。じゃあ、わたしをサポートして」


 わたしは頼んだ。

 話に夢中ですっかり冷めてしまったお茶を飲み干す。


「サポート?」


 シャルルは首を傾げた。


「わからないことがあったら教えて欲しいし、この世界についてアドバイスも欲しい」


 シャルルとして生活すれば絶対に困ることが出てくるだろう。

 ぜひ助けて欲しいと思った。


「それはもちろん」


 シャルルは微笑む。


「じゃあ、わたしが『Hey、シャル』で呼びかけたら応えてね」


 どこぞのCMを思い浮かべながら、わたしは小さく笑う。


「何が可笑しいんだ?」


 シャルルは不思議そうな顔をした。


「何でもない。その代わり、ここにシャルルのお部屋を作ってあげる」


 わたしはそう言うと、ワンルームマンションをイメージする。

 お茶を飲んでいたテーブルと椅子から少し離れたところに部屋が出来た。


呼びかけるのは「ハイ!」が正しいのか、「ヘイ!」なのか悩みました。

本当はこのフレーズのために主人公の名前をシェリルにしかけました。

でも男の子の名前ではないかなと変更です。

今後、長いと言ってアヤはシャルルをシャルと呼びます。←たいして短くなっていない。

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