表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/27

一回目の人生

初めての投稿なので、実はいろいろよくわかっていません。

間違っていたらすいません。

第一章までは毎日、12時更新です。



 阿鼻叫喚。


 その言葉の意味をその日、わたしは初めてちゃんと理解した。

 平和ボケした日本で暮らして、自分の日常に、無差別殺人が起こるなんて誰が思うだろう。

 少なくとも、わたしは思わなかった。

 銃が流通し、乱射事件が起こるような国ではない。

 だがそんな国にも通り魔なんてものはいる。

 通り魔は、昼に賑わう街の中で無差別に人を刺して歩いた。

 その場にわたしは運悪く居合わせる。

 遠くのほうで誰かの悲鳴が聞こえた。

 逃げる足音もする。

 どさっと肉が打ちつけられた鈍い音は誰かが倒れた音だろう。

 何人刺されたのかは、もうすでに数えきれなかった。

 多くの人が道に倒れている。

 その中に、わたしもいた。

 わたしはぎゅっと腕の中の小さな身体を抱きしめる。

 そこには小さな男の子がいた。

 声も出せずに震えている。

 必死にわたしにしがみついていた。

 その子は最初に刺された女の人の息子だ。

 わたしとは縁もゆかりもない。

 ただ道ですれ違っただけのその子が刺されそうになったのを見た時、わたしの身体は勝手に動いていた。

 その子の母親らしき女性は刺されてすでに地面に倒れている。

 目の前で母が刺されるのを見てしまった男の子はショックで立ち尽くしていた。

 その子に向かって通り魔はナイフを振り上げる。

 庇ってくれる母がすでにいないその子が助からないことは誰の目にも明らかだった。

 思わず、腕の中に抱きしめて庇う。

 ナイフはわたしの背中に刺さった。

 そして引き抜かれる。

 痛みより熱さを感じた。

 男の子を抱えてわたしは倒れ込む。

 腕の中に抱きしめた子供が無事なのを確認してほっとした。

 死んだふりをする。

 その子を守るために、それが一番効果的だと考えた。

 もっとも、それはもうすぐふりではなくなることはわかっていた。

 出血多量で意識がぼうっとしてくる。

 だが腕の中に抱きしめた子供は離さなかった。

 この子だけは守りたい。

 そんな使命感に似た何かに突き動かされる。

 正直、自分のそんな行動に驚いていた。

 わたしは正義感が強いわけではない。

 自己犠牲なんて言葉、一番嫌いだ。

 他人を助けるなら、自分も他人もどちらも助からなければ意味がない。

 誰かの犠牲で助かっても、笑えるはずがないのだ。

 通り魔に刺される人を庇うのではなく、その通り魔を倒す方法を考える方が理にかなっている。

 殺すつもりで襲えば、止められるだろう。

 棒状のもので殴ってもいいし、その場にあるものを手当たり次第に投げてもいい。

 自分や誰かの命を守るためなら、そのくらいのことはできると思っていた。

 だが実際に出来たのは、男の子を助けるだけだ。

 しかも、自分は死にかけている。


(うまくいかないものだな)


 心の中で、わたしはぼやいた。


(ごめんね)


 男の子に謝る。

 自分を助けるために誰かが死ぬなんて、トラウマでしかないだろう。

 そんな重荷を背負わせることを申し訳なく思った。

 だがそんなことを考えることもできなくなる。

 目の前が暗くなり、意識が遠のいていった。


 こうして、わたしは短くはない一回目の人生を終えた。 


本題タイトルにたどり着くまでちょっと長くなってしまったのですが、第一章は毎日定時UPなのでおつきあいいただけましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ