カラス先生の手紙
親愛なるメアリーへ
近頃は昼もめっきり冷えてしまった。街のいたるところには薪にするための材料が山積みになっている。メアリーも体を冷やさないように気をつけるといい、体温は体を守ってくれる役割があるからね。
最近私はまた引っ越しをした。以前までいた街ではたくさんの人に慕われていたがなくなく別の町に移動することとなった。幸い新しい街でもすぐに馴染めて、近所の子供達からは「カラス先生」と呼ばれている。
といっても時期が時期のため彼らとはすぐに別れることになるのだが。おっと、手紙でこんな愚痴を書いても仕方がないよな。
話は変わるが、メアリーのいる土地ではオリーブが有名らしいが一体どんな味がするのだろうか。聞くところによると油にして使う場合もあるらしいけど、流石にそれはもったいないと私は思う。できる限りいっぱい食べて免疫をつけなさい。
そうだ、以前手紙に書いていた彼氏のアンドリュー君は元気にしているかい。君の話では彼は理知的で働き者の青年という印象を受けた。少し早いかもしれないが彼との生活を共にするのも悪くないんじゃないか?何事にも行動は早いほうが良い。いつ何が起こるとも限らないのだから。もし早めに式をあげたくなったのなら私も呼んでくれると嬉しい。
冗談はこれくらいにしておいて、今更かもしれないが君が生まれてからほとんど生活をできなかったことを許してほしい。私は多くの人を守らなくてはならない立場にある。それは国や立場、身分に関係ない。彼らを救うことが君を守ることにつながると信じているからだ。それは私の同業者も同じ思いのはず。
しかし、”彼ら”の脅威は想像を絶するもので、数多くの同業者もやられてしまった。たくさん助けてもたくさんやられる。なかなか辛い仕事だが、同時にやりがいも感じている。
誰かが『神なんて存在しない』と言っていたが私はそう思わない。今の状況は神が与えた試練であり、これは人類が乗り越えるべき高い高い壁なのだ。それを乗り越えたときに神は祝福を与えてくれるのだろう。今いたるところで行われている戦争もきっと神の試練の一つなのだろう。とはいえ、医師の一人としては私の手が届かないところで誰かが死んでしまうのは心苦しい。
最後になるが恐らく私からの手紙はこれでおしまいだろう。繰り返すがくれぐれも体に気をつけてくれ、万が一風邪を引いたと思ったら近くの医師にすぐに頼りなさい。手遅れになってからでは遅いのだから。
1347年11月20日 パパより
手紙を受け取った3週間後、メアリーの元に一通の手紙が届いた。手紙には白地に赤十字の国旗が描かれており、中には一枚の紙が三つ折りで入っていた。父の働きを労う内容と彼が神のもとに召されたという内容の手紙だった。