『女神様のお仕事』~息抜き短編集~
「それでは、貴方が新しい世界で幸せに暮らせますように……」
「ありがとうございます。女神様。絶対に魔王を倒して世界を救ってきます!」
「はい。頑張ってください」
そう言うと青年は光包まれて消えていった。
「はぁ~疲れた~!今日何人目よ全く。最近人死に過ぎじゃない?」
私の名前は女神ミリア。女神と言ってもまだまだ下っ端なので雑務のような仕事をしていた。この仕事についてそろそろ1000年。もうすぐ行われる昇格試験の為に頑張って入るのだが。
「全く何が「絶対に魔王を倒します」よ。ずっとニートやってたやつがいきなりそんな事できるわけないじゃない。魔王馬鹿にしすぎ」
私は死んだ魂の中でも、特に元気で生への執着が強い魂を新たな世界に転生させるのが仕事だ。生に執着が強いという事はそれだけ人生に後悔をしている、という事だ。
「つまり仕事をしてなかった、彼氏彼女が出来たことのない若い人間が多いのよねー。特に最近は。全く一度の人生でどれだけの時間があると思ってるのよ。それくらい頑張りなさいよ」
愚痴もこぼしたくもなる。特に最近の「地球」という星から来た人間は仕事はしてない異性と付き合ったことない人間が多すぎる。
「そんな星滅んじゃえばいいのに。まぁおかげで私の仕事があるのも確かなんだけどねー」
そんなことを考えていると次の魂が送られてくる知らせが届く。どうやら次の魂は先ほどと同じずっと引きこもりをしていた人間らしい。
「はぁ。嫌になっちゃう。でもこれも昇格の為よ。頑張るのよ私」
魂の情報を一通り確認した後椅子から立ち上がり真っ白なこの空間の明かりを少し暗くする。こうすることによっていかにも神秘的な部屋のように見えるのだ。
「ん、ここは?あれ?俺って死んだはずじゃ」
「ようこそ彷徨える魂よ。私は女神ミリア。貴方はこれから新しい世界に転生するのです」
「え?女神、様?転生?」
彼は20代後半の男性。どうやら道路で猫が飛び出しトラックに轢かれるのを助けて代わりに自分が死んでしまったようだ。
「はい。そして貴方は残念ながら死んでしまいました。ですがその「猫を助けた」という素晴らしい行いを称賛し、新たな世界で再び人生をやり直す事が出来ます」
大抵こんな感じに褒めておけば皆納得して転生していく。全くチョロい連中だ。
「そうですか。あの、一つ聞かせてください。あの猫はどうなりましたか?」
「はい。貴方のおかげで助かりましたよ」
「そうですか。良かった」
本当は猫は助けなくてもトラックの下をくぐるだけで死にはしないのだが。つまりこの男性がしたことは大して意味がなかったという事だ。そしてこの男性は猫の生死など気にしていない。だがまるでいいことをしたかのように私にアピールしてくる。正直うざい。
「貴方は次はどんな世界に行きたいですか?」
「そうですね。剣と魔法の世界、なんてないですよね?」
「もちろんありますよ?」
「え?本当ですか!?魔物とかいてステータスがある世界は?」
「ございます」
彼はそれを聞くとガッツポーズをする。どうやらまた「ラノベ」に詳しい人が来たようだ。まぁその方が話が早くて楽なのだが。私はそんな事は一切分からないように綺麗な笑顔を振りまきいかにも女神様を演じ切る。まぁ女神なのだが。
「ち、チート能力とかもらえるのですか?」
「多少他の人より有利には出来ますが「よっしゃー!!」話聞けよこのガキ」
彼は私の言葉を遮りピョンピョン跳ねて喜ぶ。っといけないいけない平常心平常心。まぁいいや。適当に力与えて転生させて寝よ。
「ではそろそろお時間ですので「え!?待ってください!容姿はかっこよくして髪は白髪でハーレムを作って魔法能力適性がすごくて運動神経抜群にしてください」そんなことは勝手に頑張ってください」
この手の人間は努力しないでもなんでも手に入る事を希望する。そんなことはできるがさせない。私の昇格に響くからだ。
「え?でもせめてハーレムは「それはご自身で努力なさって下さい」は?なんだよ話が違うじゃないか!」
なんお話と違うか分からないがめんどくさくなりそうだ。
「ねぇ。もしかして魔王とかいるの?」
「勿論いますよ?」
「倒さなくちゃダメ?俺運動神経悪いんだけど」
「ええ、存じております。10年家から出てませんもんね」
「う、だから魔王とかは勘弁」
「別に倒さなくてもいいんですよ、たぶん他の人がやってくれますから」
「あ、そうなの?」
「ええ。では転生を開始します。次の人生で貴方が幸せになりますように」
「え、あ、ちょっと!!」
彼は何か言おうとしたが光に包まれ転生していった。
「はぁ。めんどくさいわ。ってまだ来るの!?」
次の魂が到着する知らせが届き項垂れながらもそれに目を通す。
「ん?あれ?俺は死んだはずじゃ」
「貴方は……」
お決まりの説明をし、彼もファンタジー世界を選択する。だがそこからめんどくさいやり取りが始まる。
「魔王とかいるの?倒さなくちゃダメ?何で?俺そんなことしなくちゃダメなの?というか女神ならそのくらいやってもいいよね?できないの?駄女神なの?俺の言ってる事わかる?」
たまにいるこういうやつは自分が正しいことを疑わず、最終的に私からすごい力を貰おうという魂胆なのだ。実にめんどくさい。
「で、ですから。魔王は倒さなくてもいいです。でもその代わり人類が滅びる可能性が大きくなります」
「は?じゃあ倒さなくちゃならないじゃん。分かってんの?アンタの言っている事矛盾している事。だったらそれ相応の力よこせよ」
はいきました。チートくださいって。結局こうなるのよね。
「あ、じゃあもういいです。俺が転生しなくゃ困るんでしょ?でも俺転生しないわ」
「わかりました。では貴方は輪廻の法則にしたがい記憶を消して転生してください。次の人生は虫か虫か虫か虫かわかりませんが後悔しないで下さいね」
「え、あ、ちょっと嘘嘘!!それは困るんだ……」
こうして彼は転生していった。ああいうひねくれた輩はチートを与えても碌なことない。なので虫にしてしまうのが一番いい。
「はぁ。まだまだ来るのかぁ。もう寝たいよー」
愚痴を言っても仕方ないので次を呼ぶ。
「ん、ここは?俺は死んだはずじゃ」
「ここは……」
「そうですか。では勇者になりたいです!!」
「はい。勝手に頑張ってください。次!!」
「ん、ここは?私は死んだはずじゃ」
「はい。ここは……」
「私逆ハーレムが」
「シリマセン。次!!」
「ん。ここは?僕は」
「ここは……」
「女の子にモテたいです!」
「あっそうですか。次!!」
まともな奴が来ない。ラノベ読むすぎゲームのし過ぎだ皆は。まぁそう言うやつの方がここに来やすいのだが。
「ん?ここは?俺は死んだはずじゃ」
「ここは……」
「そうですか。ではその魔王を倒せば世界は救われるのですね!是非やらせてください!」
「はーい。頑張ってくださいね!」
勇者になりたい、ハーレムを作りたい。チートが欲しい。金持ちになりたい。そんなものは自分で努力してなるものだ。初めから与えてられることなんかない。
「はぁ。まともな魂はこないのかしら?もう何年も見ていない気がするわ。あ、次で今日の最後か」
「ん?ここは?僕は死んだはずじゃ」
「貴方は……」
「そうですか。では僕は生まれ変わらないでいいので残してきた家族を幸せにしてください」
ほう、久々にいい子が来た。嘘もついておらず心からのセリフだ。この子は前世で父を早くに亡くしシングルマザーに育てられ、母親と二人三脚で暮らしてきたようだ。
「わかりました。お母様は幸せになれるように手配しておきます」
「よかった。ありがとうございます」
「でもあなたも幸せになってほしいので。転生はさせてあげますよ」
「え?本当ですか?ありがとうございます。女神様!」
そう言うと彼は膝をつき私に祈りだし。そうそう、私は崇められる存在。もっと崇めなさい!もっと讃えなさい!
「では、僕は「努力をすればちゃんと成長できる」能力が欲しいです!」
「ほう、なら少しだけ他の人たちより成長が早い能力をあげましょう」
「ありがとうございます!!」
こうして今日最後の仕事を終えると突然上司の女神が訪ねてきた。
「お疲れ様。今日はもうお終いかしら?」
「はい。終わりました」
「そう。では少し早いけど昇格試験の結果発表をするわね」
「え!?お、お願いします!!」
「試験の結果は……不合格です!」
「へ?……な、何でですか!?理由を教えてください!!」
「理由は簡単。転生させた人の4割が虫、2割が他の動物、残りの6割が人間だけれど使えなさ過ぎて転生してほとんどがすぐに死んだわ」
「えー、だって碌な人間いなかったんですもん」
「そんなことないはずよ。私がこの仕事をしていた時は……ん?」
上司の女神が何かを言いかけた時、突然新たな魂がやってきた。
「ん、ここは?俺は確か死んだはずじゃ」
「ここは……」
仕方なく上司と共に魂の選別を行う。しかし。
「ですから!!そんなチートはあげられません!」
「なんでだよ。馬鹿なのあんた。女神なんだろ?俺は選ばれた人間なんだぜ?分かってんの?」
「あ、もういいです。貴方は虫になりなさい」
「は?ちょっと!!ふざける……」
上司は彼を虫にしてしまった。
「あ、あの」
「あ。ま、まぁ仕方ないわよね。あいつクズだったし」
「えー……」
結局昇格試験はやり直しとなった。
あなたももし転生できるようになったらマナーとモラルを守ってくださいね!
転生の話が多い最近。
どうしても普通こうならない?って思って書いてみました。
皆様の転生の機会があったら気をつけましょうね!