表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/30

三十、旅立ち

 大きなスーツケースを持った人々が行き交い、遠く離れたイミグレーションの奥にあるデューティーフリーショップからの香水の匂いが、空港会社の手続きカウンターまで匂っていた。

 ここは、某国際空港の搭乗口。

「アテンション、プリーズ。Δ航空二三七便・ニューヨーク行きに搭乗予定のお客様、南ウイング八番ゲートにて搭乗手続き中でございます……」

 飛行機の出発を告げるエコーの効いたアナウンスが、広大なロビーに響いていた。

 手荷物だけになって身軽になった僕は、少し離れて待っていた律子のところへ駆け寄った。

「出発まで一時間もあるから、ラウンジに行こうよ」

 僕がそう言うと、律子は微妙なニュアンスの言葉を返してきた。

「あと一時間しかないのね、一緒に居られる時間は……」

 僕は、律子の言い方に少し切なくなった。

「そんな言い方、しないでくれよ」

 僕は無理やり笑いながら、精一杯の皮肉を言った。

「これが永遠の別れって訳じゃないんだからさ、すぐに戻ってくるからさ」

 律子は下を向いて、涙を拭ってから僕を見た。

「そう、そうよね。私ってダメね」

 そう言って、律子は精一杯の笑顔を僕に見せてくれた。律子の目は、もう既に真っ赤になっていた。

「じゃ、行ってくるね」

 僕は、律子と握手をした。律子は、僕の顔を見つめてうなずいた。

「いってらっしゃい。気を付けてね」

 そこヘ阿川真理が僕の背中をグイッと押した。

「そこのお熱い、お二人さん。ギュ〜ッと抱き合ったっていいのよ〜」

 僕と律子は真っ赤になっていた。その姿を見て、真理が呟いた。

「……はぁ、羨ましいわぁ」

 真理と駿平は、イミグレーションに消えて行った。

 駿平は時々振り返って、大きく手を振っていた。

 律子も、それに合わせて手を振っていた。

 二人の姿が見えなくなった頃に、低い声が聞こえた。

「これからが大変だな」

 振り返ると、そこに雨宮健一が立っていた。

 律子と奈津子、そして藤巻も驚いていた。

「律子、戸倉君に負けないように」

 律子はちょっとムッとした。また、健一の台詞が始まったと思った。

「でないと、彼とはセッション出来ないぞ。戸倉君は、凄い進化をするかもしれない」

 健一は、少しはにかんだ。

「楽しみだな」

 健一は律子の方を向いて、にこやかに笑っていた。

「律子、負けちゃダメだぞ」

 律子はそれを聞いて微笑んだ。

「うん」

 律子は、うなずいて駿平が消えて行った方向をずーっと眺めていた。

 そんな律子の姿を、健一は穏やかな表情でジーッと見ていた。

 まるで勝ち誇ったように。

完結しました。

感想など、お寄せいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ