十六、告白
「定期演奏会まで、残り時間が少ない」
市民吹奏楽団の団長が珍しく姿を現して訓示を垂れた。
「なのに、仕上がり具合は今ひとつに感じられる」
「各自、モチベーションを上げて練習に臨むように」
そう言って、団長は楽団員を見回した。
「はいっ!」
楽団員全員の返事が練習室にこだました。
指揮台には、団長と入れ替わって主席指揮者が立った。
「皆さぁん、大丈夫ですよぉ」
「ちゃ〜んと出来ていますからぁ」
ちょっと女形の入った指揮者だが、音楽の知識とセンスは抜群で、コミカルな話法で人を引き付る力があり、それが指導力の一部になっている。
「じゃあ、最初の曲、いきまぁす」
指揮者は、タクトを振り下ろした。
練習の中休み、楽団員は自販機の前で、カップを抱えながら談笑していた。
その中に、雨宮律子と戸倉駿平もいた。
「そうか、お母さんがそんなことを」
僕は、口を固く結んで考え込んだ。
律子は、カップを両手で抱えてゴクリと一口飲んだ。
「そうなのよ。お母さん、ちょっと寂しそうだった」
駿平のピアノの師匠である藤巻要一は、律子の母親である雨宮奈津子の昔の彼氏だったのだ。
律子は、そのことを母親の奈津子の口から聞かされた。
しかも、何の前触れもなく突然別れたということも語られたのだった。
「師匠はそんな人じゃないと思うけどな」
僕はレッスンの様子を語った。
「いつも親父ギャグ連発の冗談ばっかりだぜ」
「僕の話なんか、マトモになんか取り合わないよ」
「でも、ピアノの指導はツボを押さえてるよ」
律子は「ふ〜ん」と聞いていた。
「でも、レッスン以外のことは何も知らないし、分からないな」
「師匠のレッスン室に行ってレッスンするだけだから、何処でどんな生活をしていたかなんてことはサッパリ……」
僕が言い切る前に、律子は僕の顔を見て言った。
「全然知らないのね」
僕はカップのコーヒーをすすりながらうなずいた。
律子は、溜息をついた。
「さぁ、時間だぞー!」
「後半の練習、始めますよぉー」
パートリーダー達の声が響いた。
律子と駿平は腰を上げた。
「終わってから、いつもライブハウスで話そうよ」
僕がそう言うと、律子はうなずいた。
駿平は「ライブハウス」という言葉に違和感を覚えた。
だが、どうして違和感がするのか、すぐに気付かなかった。




