ゲーム開始
勢いよく現れた女、さっちゃんは片手をあげたまま止まった。
「…修羅場?」
「違うわよ!」
ポツリと落とされた言葉にいち早く反応したのは、二つ結びの女だった。さっちゃんは、ずんずんと二つ結びの女に近づく。
大股で近寄るのが怖かったのか、女が後退りする。さっちゃんは女の目の前にたつと、可愛いと言った。
「可愛いりぼんをしているから、貴方の名前はリボンだね!」
そう宣言すると、ウサギのキグルミの方を向く。男は飄々とした態度で、毅然と立っていた。
「君はウサギね。」
次はメガネの男の方を向く。
「君はメガネだ。」
メガネはうん、と一つ頷いた。リボンが口を開けてその光景を見ていた。
「あんたは絶対無視するかなんかしそうなのに。」
「いや、リボンちゃんほどじゃないよ。ただネーミングセンスないなーとは思ったけど。」
メガネは頬を掻きながら、さっちゃんと向き合った。
「きっと君から言い始めたってことは、ばれたくないことがあるんだね?」
目の奥が笑っていない。リボンの喉がひゅっと音をたてた。後ろの方でウサギがカタカタと揺れている。
「さあ?」
にんまりと、さっちゃんが笑った。そのはずである。ただし、目の中に感情がなく人形のような顔だった。
「それは、私だけじゃないんじゃない?」
言い切ると、そのまま体を反転させた。そして、突っ立っていた従業員の男を見据える。
男は目を伏せたまま動かない。その後ろに待機するメイドも同様である。
「よく飼い慣らされている…。」
ぽそりとさっちゃんが言った。リボンはじっと男達を見つめている。じっと、じっと動かない男達を。
「このままじゃ埒が明かないね。」
メガネがそう言って男たちに一歩近づく。
その時、ボーンボーンと時計がなった。針は六時を指し示している。
音が部屋を横断していく。完全に部屋から出ていくと、男達が顔を上げた。一度に、決められたように。
「ようこそいらっしゃいました。ここは森の館。ある人の全てが詰まっている夢の館でございます。」
「招待状を送らせていただきました四名には、ある共通点がございます。それはここを出る鍵となります。」
「しかし、わかっただけでは終わりません。そこからある答えを探して頂きたい。それが、ここの家主の依頼です。」
「それまでは決してここから出ることは叶いません。もし出てしまったなのなら、制裁が下されます。その事を努々忘れませんよう。」
「それでは家主からの挨拶です。」
そう次々と掛け合いのように話した。まるで演劇の台詞のようだ。いきなり始まったそれを、四人はただただ見るしかなかった。
男と女達は深々お辞儀をした。そこからきっかり二十秒後。部屋の一番大きな扉が、音をたてながら開いた。
「ようこそ、お客人。」
杖をついた初老の男が、微笑んだ。
黒いステッキに茜色のスカーフを胸ポケットに収め、紺のスーツを身に纏う。すらりとした手足はまるで棒のようである。どこか疲れたような雰囲気を醸し出す、そんな男であった。
「いやはや、呼び出してしまい申し訳ない。」
喋る度に、綺麗に切り揃えられている口元の髭が動く。
「私がお客人を呼んだ理由は、先程説明した通りだよ。」
リボンが口を開き、すぐに閉じた。反論しようとしたのかもしれない。ウサギも手に持っていたスケッチブックに何か書こうとして、ペンを置いた。
「うん、その方が懸命だ。」
家主はにこりと笑った。
「私の名前はタガミ。そこの男はヤシロ。そこの女はアカギとワタナベ。」
名前を呼ばれた順にお辞儀をしていった。黒髪の方がアカギで、茶髪の方がワタナベらしい。
「さて、それでは始めようか。」
「一体何を?」
メガネはわからないと言いたげに、眉を潜めた。
「なに、ゲームだよ。君達が解けるまで帰れない。簡単なゲームさ。」
そう言ってタガミは大きく手を広げた。ステッキが、重力に従ってだるんと先が下がる。
「ゲーム開始!」
また外で、雷が落ちた。
久しぶりの投稿です。がんばります。