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とても依頼を受けられる状況ではないぞ

「おい、冒険者ギルドからの指名依頼だぞ。それを断ろうっていうのか?」


 盗賊が信じられんと言わんばかりの顔となるのも無理もないというもの。


 依頼を受ける受けないの選択肢は冒険者にあるというのは、あくまで建前にすぎない。


 金に困れば選り好みなどしていられないし、つき合いのある依頼人からのごり押しを断ろうものなら、次から依頼がこなくなるかも怖れがある。


 ましてや、冒険者ギルドからの指名依頼である。これを断って心証を悪くすれば、今後のスウェアの町での活動に支障が出かねない。


 無論、他の町に拠点を移せば冒険者を普通に続けていけるが、それはスウェアの町で築いた実績などを捨て、一からやり直すということになる。


 それらのリスクを思えば、また冒険者ギルドに貸しを作れる点を考えたなら、大抵の冒険者は素直に受けるはずなのだ。


「相手がリビング・デッド、いや、あのザインと聞いて、ぶるっちまったか?」


 盗賊がウィルに挑発するような言葉を投げかけるのは、ギルドからの依頼を受けさせるためである。


 あくまで指名依頼を伝える依頼を受けただけの盗賊の役割はもう終わっているが、それでノーの返事を持ち帰るだけでは冒険者うんぬん以前に、どの仕事でもうまくいかないだろう。


 この依頼を受けた盗賊の感触としては、冒険者ギルドの側はウィルらが断るなどと考えていないようであった。なのに、ウィルらが断ったと伝えたらどうなるか?


 もちろん、冒険者ギルドがウィルたちへの心証を悪くするだろうが、それに加えて盗賊の伝え方が悪いかったと邪推されたら、とばっちりを受けることになりかねない。


 安い仕事で面倒なことになったと思わなくないが、これからの冒険者ギルドとのつき合いを考えれば、ウィルたちを説得しなければならないが、


「ザインの奴はユリィに強い執着を見せていた。奴がユリィを狙ってきた時に備えたいんだよ、オレたちは」


 盗賊もベテラン冒険者の一人である。敵を探し回れば、向こうに不意打ちを受ける可能性がある。それよりも、待ち構えていた方が不意打ちを食らい難く、戦い易いのは理解できる。


 ザインがユリィを襲うということは充分に考えられ、それには外で動き回るより家に立て籠った方が対処がし易くはあるが、


「しかし、確実にここに来ると決まっていないだろうが。ここに来なかったら、町の人間に被害が出るんだぞ」


 それこそが冒険者ギルドが身銭を切り、強権を用いて、事態の早期解決を計る最大の理由だ。


 最初の被害者は冒険者だが、二番目の被害者は一般人、しかも死者まで出ている。死後の事とはいえ、犯人は元冒険者なのだ。早急に事件を解決せねば、冒険者ギルドの立場が悪くなり、今後の運営に悪影響を出しかねない。


 ザインの下半身の槍先がユリィに向くのが確実とわかっているならともかく、自分たちの身の安全を優先して町の人間への危険を放置するかのごとき振る舞いに、


「ウィル。ここはギルドからの依頼を受けるべきではないですか? その花屋さんのような被害が今も出ているのかも知れないんですよ?」


「それでユリィが花屋の娘の二の舞いになったらどうする」


 こう反論されては、セラも二の句を告げられなくなる。


「そうだ。それにウィルには、今からベルさんの所に走ってもらう必要がある。とても依頼を受けられる状況ではないぞ」


 そう発言したユリィに、セラ、リタ、サリア、盗賊、ウィルの視線までもが集まる。


「ベルさんも以前、ザインにしつこく言い寄られたそうだ。ベルさんが花屋の娘の二の舞いになる危険性がある以上、ここに保護した方がいい」


「なら、全員でベルさんの保護に向かえばいいんじゃないの?」


 サリアの素人丸出しの見解に、うなずいたのはセラのみ。


「それをやると危険だから、ギルドからの依頼を断っているの。正直、うちやユリィだと、ザインが暗がりにでも潜んでいたら対処する自信がない」


 品性がどれだけ悪かろうが、ザインが一流のランサーであるのは事実だ。その実力者が暗がりにでも潜み、不意打ちを仕掛けてきた場合、対処できるのは、それに近い実力を有するウィルだけだ。


 ユリィやリタとて、独特の護身術を学んでいれば、特殊なスキルを有している。距離をいくらか置いて対峙したのであれば、一対一でもザインに負けることはない。しかし、そうでないなら、ユリィやリタでもザインの奇襲や不意打ちはかなりの脅威だ。まして、セラやサリアが標的になった場合、魔法の槍で貫かれるのは目に見えている。


「けど、夜道をウィル独りで行かせるというのも危険ではありませんか?」


「ああ、危険はある。だが、ウィルならまだ、それを何とかできる公算が高い。安全ばかりを考え、何もしなければ、ベルさんに何かあった場合、シャレにならんぞ」


 セラの心配にうなずきつつも、あくまでベルリナの身を案じるユリィ。


「ベルさんの元にオレが行った方がいいというのはわかるが、もし、ザインがここに来たら……」


「その時は私とリタで対処できる。化け物になったとはいえ、別に一本が二本や三本に増えたわけではないだろうからな」


 実質的にセラやサリアは戦力とならないとはいえ、ザインがいかに強くとも、三対一なら万全。二対一でも、片方を犯そうとした時にもう片方が攻撃を加えるなど、対処は難しくない。


「オマエが夜道が怖いというのであれば、私が……」


「わかったよ。オレが行く。行って、さくっと戻って来る。しっかりと戸締まりをしていろよ」


 ユリィに皆まで言わせず、ウィルはその方針に従い、装備を取りに奥に屋根裏部屋に向かう。


 ユリィやリタも武具を身に着けるためにこの場を離れる中、


「どうなされたのですか?」


 武器を持たず、いつもの神官服姿のセラが、玄関に立ったままの盗賊に問いかけるのも当然だろう。


 もうウィルたちに依頼を受けさせるのは無理とわかった盗賊は、しかし早々に立ち去ることはせず、


「いや、あの小僧が出るなら、ギルドの近くまで一緒に行こうと思って。どこでザインに出くわすかわからんしな」


 危険な冒険者稼業を十年以上も続けてきた盗賊は、さも当たり前のように慎重な判断を口にした。



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