いったい、何をしたんだよ?
魔法の鎧をものともせず、量産品の槍で心臓を貫かれたスウェアで最強のランサーの姿というより、死に樣にギャラリーの全てが呆気に取られる中、
「勝負が着いたか。じゃあ、回収する物を回収して帰るか」
ユリィが促すまでもなく、ウィルはザインの死体から槍を引き抜きにかかり、リタはコラードの所に行って勝ち分を持って行こうとする。
一応、仲間の賭け金の額も知っているが、リタはユリィを呼んで確認してもらっている間に、ウィルも引き抜いた槍に付着したザインの血を布切れで拭き終え、
「セラ。ベルさんにあいさつして、帰るぞ」
「……ちょっと待ちな」
ザインの仲間の一人が撤収しようとする勝者たちを呼び止める。
「いったい、何をしたんだよ?」
その疑問は三人を除いて、セラすらも含めた、この場の全員が抱いているものであった。
が、ウィルがザインに勝った、いや、殺した方法は当人はもちろん、ユリィやリタにとっても簡単で明白なものだ。
ウィルが勝利した手段は単純なもの。自分の槍先に死の印を施しただけのことである。
この印を施した槍で相手の心臓へと突き出せば、例え防がれても槍が勝手に狙った心臓をうがつ。
正に必殺の技だが、絶対ではない。これをフォケナスに繰り出してもかわされてしまうだろう。いや、フォケナスに限らず、実力を大きく上回る相手に通用する技ではない。
だが、ザインどころか、それよりもいくらか格上程度までなら、絶対必殺の技となる。
もちろん、必殺の技ゆえ、繰り出せば必ず相手は死ぬ。死闘の最中ならともかく、決闘のような場での使用はウィルもためらいはした
殺さずに勝てるなら、ウィルも使わなかっただろう。ただ負けるだけなら、勝つためだけに使わなかったはずだ。
しかし、仲間を守るためであったがゆえ、ウィルは自らの未熟さを誤魔化すことを選んだ。
この決闘の勝敗によって、ザインの一命かユリィの一枚、どちらかが失われるのであるなら、ウィルに選択の余地などなかっただろうが。
無論、自分のためにザインを殺したウィルに対して、
「いや、どっちも一つしかないけど、命はなくなったら生きられそれまでなのに、膜は破られても痛いだけですむんだけど」
内心、ユリィが呆れているのは言うまでもない。
当然、問われて素直に内心や手の内をさらす必要はなく、
「特殊な技を使っただけだ。必ずうまくいくとは限らないが、うまくいけばご覧のとおりだ」
ウィルは適当にけむにまこうとする。
ギャラリーからすれば、ザインの槍がウィルの突きを弾いた直後、ウィルの槍が勝手に動いてザインの左胸を貫いたようにしか見えず、実際に槍先に施した死の印が作用して心臓を貫いたのだから、ギャラリーの見方は間違っていない。
しかし、いかに不自然な動きと結果であっても、ウィルのスキルを知らず、見抜けねば、特殊な技という誤魔化しに何も言うことはできない。
「このような結果になったのは悪く思うが、決闘に応じた以上、こうなるのは納得しているはずだ」
いけしゃあしゃあとウィルは言うが、決闘の最中で起きた事では罪を問えない。
また、ウィルの槍の動きがいかに不自然であろうとも、何をしたのかわからぬのでは、物言いのつけようがない。
「せめて、冥福は祈らせてもらう。あんたらもザイン殿を手厚く葬ってやるがいい」
白々しく瞑目するウィルに、セラ、ユリィ、リタも倣う。
フォケナスは簡単に生き返らせていたが、この世界で蘇生の御業が使える御使いは一握りだけ。このスウェアの町はもちろん、この国にすらそこまでの御使いはいない。
もちろん、いないわけではないのだが、例えそこまでの御使いの元にザインの死体を持ち込めたとしても、辺境の町で一番のランサー程度では、どこぞの王か大貴族の紹介でもなければ、死体を見ることもないだろう。
ひとしきり冥福を祈ったふりをしたウィルらは、今度こそ立ち去っていき、今度は誰も呼び止めることはできなかった。
勝者とその仲間がいなくなると、ギャラリーも次々とこの場から去って行く。無論、その大半、賭けに参加していた者は、落胆
するなり、不機嫌そうな顔を見せるなりして。
胴元としての上がりを得て、上機嫌なコラードもいなくなると、ザインと持ち金のほとんどを失った三人の女性冒険者はしばし途方に暮れたが、やがて彼女たちも動き出す。
ザインの装備、魔法の槍と鎧をはぎ取った三人は、葬儀屋の元にではなく、宿屋に置いてある故人の荷物を山分けにするために。




