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……何だ?……

 冒険者ギルドの側にある空地は、普段、冒険者たちの手合わせや訓練に使われ、誰でも使用可能な反面、誰かが独占して使って良いものではない。


 だが、ザインとウィルの決闘の件は知れ渡っており、この日は普段の用途で使おうという冒険者は一人もいない。代わりに決闘を見ようと、暇な冒険者や手透きのギルド職員が集まり、さらに決闘を聞きつけた物見高い市民らまで駆けつけ、かなりのギャラリーを形成していた。


 そのギャラリーらの中で特等席に位置する場所に、ウィルとザインの仲間たち、計六人の女性の姿があった。


 ちなみにサリアやベルリナの姿は特等席にもギャラリーの中にもない。サリアは前々から仕事の予定があり、ベルリナは昨日の無理が祟って、決闘の場に来ることが叶わなかったのだ。


 無関係なギャラリーたちは単に面白がっているだけだが、その中で賭けの胴元をやっているコラードは、かなり目を血走らせている。


 先日までの食糧高騰でサリアの案に乗り、濡れ手に粟を経験したコラードは、それ以降、いい年して山師的なことに手を染めるようになってしまい、今日も仕事を従業員に押しつけ、何よりサリアからどちらが勝つか聞いたこともあり、賭けの胴元で一儲けを企んでいる。


 言うまでもなく、ギャラリーが積み上げる賭け金は、圧倒的にザインの方が多い。女癖のとことん悪い男だが、その槍の腕前は確かだ。おまけに、ウィルの装備が安物の槍と革の鎧であるのに対して、ザインは魔力が付与された槍と鎧、魔法の武具で身を固めているのだ。


 スウェア最強のランサーと無名の新人ランサー。本来なら賭けが成立するものではない。実際、大穴を狙う何人かが出した賭け金など、わずか。ユリィとリタが出した賭け金に加え、サリアから預かった分も積んでおらねば、この賭けは流れていただろう。


 ユリィ、リタ、サリアの賭け分でどうにか成立したこの賭けには、当然、ザインの仲間たちもザインに賭けて参加している。


 彼女たちはこの場に姿からずっとニヤッニヤッと笑っている。それはザインの勝利を確信しているためであり、賭けに勝つと思っているからだが、それだけではない。


 ユリィ、リタ、セラの末路を想像し、それが楽しく仕方なく、暗く卑しい笑みがもれてしまうのだ。


 彼女たちは全員、異なる村の出身だが、共通しているのは冒険者の自慢話を何度か、耳にしたことがある点だ。


 貧しい村で華やかさとは無縁な暮らしをしてきた三人にとっては、冒険者の語る成功談は一縷の希望であった。


 村にいたところで、父親のようなショボイ男と結婚して、朝から晩まで働き詰めの生活と未来しかないのはわかり切っている。だから、三人は家から金を持ち出し、スウェアの町にやって来て冒険者となり、そこで当たり前のことを知った。


 成功した冒険者の影には、十何組もの失敗した、あるいはうまくいっていない冒険者がいること。そして、不景気な話は自慢気に吹聴したりしないということも。


 冒険者となった三人に待っていたのは、夢に見た生き方とは真逆な地べたを這いずるような暮らし。その中で三人は同じようにやさぐれていき、冒険者としてやっていくためにただれた生活を送るようになっていった。


 腕の立つ冒険者に体を使って取り入り、そうして冒険者としての実力を磨くのではなく、男を悦ばす術を磨き続けた三人は、順序こそ違えど、スウェアで最強のランサーの元にたどり着き、それなりに豊かな生活は送ってはいる。


 だが、生活にゆとりができ、それで満足とはいかなかった。むしろ、生きていくのに必死になっていた頃に見えなかったもの、今までしてきたことを振り返る余裕ができたことで、自分たちがいかに惨めかを自覚するようになってしまった。


 無論、それがわかっても、彼女たちは自分の生き方を変えることなどできない。大したものではない己の力のみでやっていこうとすれば、冒険者に成り立ての頃のような悲惨な生活が待っているだけなのだから。


 現実に立ち向かうことができず、鬱屈したものを溜めていった三人は、同じ女性冒険者の挫折を見て、悦ぶ歪みを抱えるに至った。


 ユリィ、リタ、セラは男冒険者に媚びることなく、派手さこそないが着実で順調に冒険者としてやっている。何より、ウィルとも対等で良好な関係にあることが、三人にとってこの上もなく羨ましく、許せなかった。


 だから、心配げなセラや平然としているユリィやリタが、ザインに無茶苦茶にされ、自分たち以上に堕ちる様が楽しみでならないが、当事者であるザインはそこまで能天気になれない。


 槍を構えてウィルと対峙するザインは、負けるとは思っていないが、楽勝とまでいかないことも感じている。


 グライスの意向を汲めば、ウィルを殺すか、痛めつけねばならないが、それはそれなりの実力差があって可能な芸当。互角以上に戦う自信はあるが、偶然に見せかけて殺したり、痛めつける余裕まではひねり出せそうにない。


「チッ。あの水精族を喰って、まずは悔しがらせてやるか」


 心の中で毒づきながらも、ザインは思考を切り換えて決闘に意識を集中させていく。


 ザインにとっても、さほど余裕のある決闘ではないのだ。少し油断すれば負けるくらいに、ウィルの実力は低くないと見ており、その洞察は決して間違っていない。


 だが、それ以上のことは見抜けず、普通に油断せずに魔法の槍を構え、開始の合図と共にフェイントをかけながら踏み込んで来たウィルの、左胸を狙った鋭い一撃をあっさりと弾く。


 スピード、鋭さ、共に申し分のない一撃をザインはただ弾いただけではなく、ウィルの体勢は少し崩れてしまっている。


 ザインからすれば、後の勝利へのプロセスは難しくない。体勢を崩したウィルを間断なく攻め立て、立て直す暇を与えねばいいだけであったが、


「……何だ?……」


 ウィルの繰り出した槍を強く弾き、すかさず反撃に転じようとしたザインは、なぜ、自分の体から急速に力が抜けていくのか、すぐに理解ができなかった。


 強く弾きはしたが、ウィルの手に槍がないことも、怪訝に思った。


 そして、その槍が自分の左胸、心臓を貫いているのに気づくと同時に、倒れたザインは大量の血を吐き、その呼吸をほどなく止めた。



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