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冒険者としてやっていけねえな

「カンパ~イッ」


 ウィル、セラ、ユリィ、リタ、そしてサリアが、冒険者ギルド併設の酒場で祝杯を挙げたのは、二回目の買い出しを無事に終えた後のことであった。


 ゴバイルの雇ったショボイ刺客を返り討ちにし、カサードの町での買い物をすませたウィルたちは、帰路は何事もなくスウェアの町に戻り、出資者たちに食料品を配り終えると、再び出資を募って今度はカサードの町の次に近いブランムの町に出かけ、今度は往路も帰路も何事もなく帰還し、それで手じまいにして三度目の買い出しに行くことはなかった。


 今は値上がりしていた食料品の価格が下がり、むしろリーズナブルなものとなっているからだ。


 今回の買い出しでウィルたちが得た利益は、二回に渡る護衛料と運搬料、そして一回目で返り討ちにした五人の冒険者からの戦利品だけではない。


 ウィルたちは一回目の買い出しに出かける前に買い込んでおいた食料品を、一回目の買い出しから戻った際は、個人的にカサードの町で買い込んだ食料品を売り払い、これがかなりの利益となっている。


 ただし、二回目の買い出し先、ブランムの町では身銭で食料品を買わなかった。


 ブランムの町から戻る頃には、スウェアの町の食糧問題が解決すると判断してからだ。


 スウェアの町は陸の孤島ではない。また、今年は別に不作というわけでもない。ゴブリンによる被害で、スウェアの町とその近辺の収穫量が少なくなっただけなのである。


 食糧が足りなければ、他の場所から足りない分を仕入れれば良い。そんな当たり前のことに気づかなかったがため、スウェアの町は食糧の高騰に踊った。そして、ウィルたちがそんな当たり前の行動を取った途端、それに倣う者が続出して、スウェアの町の食料品は平年以下にまで落ち込んでしまった。


 スウェアの町の人々が金を出し合い、人を雇って買い出しに行かせると、わざわざ高い食料品を買わなくなる。これに買い占めを行っていた商人や売り渋りをしていた近隣の村は、少しでも高くというより、損失が小さくすむように市場に慌てて食料品を流す。


 不足すれば高くなり、余れば安くなるのが、市場原理の基本だ。一時的に食料品が市場にあふれたスウェアの町は、腹を空かす者がいなくなった反面、懷が軽くなった者が続出した。


 食糧価格の下落により、買い占めをしていた商人や売り渋りをしていた近隣の村のみならず、ウィルたちに倣った者らの中にも出遅れた者は、下落した価格の何倍もする他所の町の食料品を買うことになったのだ。


 もちろん、スウェアの町の全員が損をしたわけではない。ウィルたちは言うまでもないが、ウィルたちにすぐに倣った二番煎じ三番煎じまでは、利益を出している。まあ、その中でも欲をかいて他所の町の食料品を大量に買い込んだ者は赤字となっているが。


 ともあれ、コラードのように「こんな儲け方をすると、真面目に働くのがバカバカしくなるな」と言う者も一部にはいることにはいる。


 意図的にこんな儲け方をしたウィルたちは、懷が重くなったのもあるが、食糧価格が下がって酒場もいつも通りに飲み食いできるようになったので、他のテーブルと違って景気良く料理や飲み物を頼めるのだ。


 ちなみにウィルたちはベルリナにも声をかけ、共に祝杯を挙げようとしたのだが、


「お誘いは嬉しいのですが、ギルドの者が特定の冒険者と親密にするのは、他の冒険者に変に勘繰られてしまうんですね」


 申し訳なさそうに断れている。


 ベルリナを欠いても、男女の比率一対四。しかも、楽しげに、何より羽振りの良い振る舞いは、五人の祝宴がたけなわになった頃合、


「両手に花どころか、両手に余る花を侍らしているなんて、うらやましいな。こっちに半分、分けてくれよ」


 安酒をちびちびやっていた二人組の男が、席を立ってウィルらに絡み出す。


 ここは冒険者ギルド併設の酒場。客は基本、冒険者だ。その二人組は共に三十前後、その年まで冒険者として生き残れるくらいの、したたかさなり実力なりを備えてはいるということになる。


 そこまで経験豊かな冒険者が、絡んではいけない新米冒険者に絡んでいるのに気づかないのは、酔いのせいか妬みのせいか、その両方か。


「あいにく、私たちは人見知りするタチなので、知らない者が同席しては楽しめないのだ。ここはお引き取りを願いたい」


 ユリィが穏便に誘いを断ろうとする。


 だが、虎穴に手を伸ばしているのに気づかぬ二人組は、


「そいつはいけねえ。そんなんじゃあ、冒険者としてやっていけねえな。どれ、オレが人見知りが治るよう、協力してやろう」


 へらっへらっと笑いながら、雌虎、いや、それ以上に危険な存在の尾を踏んでしまう。


「ふむ。納得してくれぬか。仕方ない。リタ、片方を頼む。私たちがご教授を受けずとも、冒険者としてやっていけることを証明しようではないか」


 嘆息しながら席を立つユリィ。


 声をかけられたリタのみならず、ウィル、セラ、サリアも腰を上げる。


 もっとも、二人組へと踏み出したユリィの横にリタが並んだのに対して、


「やりすぎるなよ」


「わかっている。二度と声をかけられないように対処する」


 セラとサリアを背後に庇いながら下がるウィルは、ユリィの返答に無言で天を仰ぐ。


「おもしれえ。お嬢ちゃんらに、本当の冒険者の腕っぷしってのを教えてやるぜ」


「ああ。そうすりゃあ、ベッドの中でもおとなしくなるだろう」


 本当の愚か者の答えに顔をしかめながらも、ウィルは素早く店内を見渡す。


 この愚者らの仲間か黒幕がいないかを探るために。



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