証人に問い質すぞ
「つまり、この男たちは、ゴバイルというスウェアの役人に頼まれ、あんたを襲った、と」
ウィルの訴えと証人提出に対応した役人の反応は、いかにも面倒臭そうなものであった。
ユリィの奇襲によって、五人の襲撃者を倒したウィルたちであったが、それで終わりではない。
そもそも倒して終わりなら、ユリィは襲撃者を皆殺しにしている。
生死を問わず、襲撃者から回収した装備、荷物、有り金のみならず、止血処置だけして生きている襲撃者ふたりも荷台に乗せたウィルたちは、そのままカサードの町に向かった。
大した額ではないが回収した有り金を五人で分け、大した額にならなかったが、回収した装備と荷物の売却金も五人で分けてから、ウィルは襲撃者ふたりを引きずって役場に向かい、サリア、セラ、ユリィ、リタは本来の目的である買い出しを行っている。
生捕りにした二人から、すでに襲撃の背景は聞き出している。カサードの町の役場に来たウィルは、役人に事のあらましを訴えて、生きた凶器であり証拠でもある襲撃者ふたりも差し出したのだが、対応する役人の犯罪に対する反応は非積極的なものであったが、それも当然であろう。
ウィルはその役人に袖の下を渡していないのだから。
何かを訴える時、何かを頼む時、役人に金品を渡すのは、この世界では当たり前の慣習になっている。それは当たり前すぎて、贈賄側も贈収側も罪の意識はカケラもない。
さすがに口に出して金品を求めることはないが、役人は目線や仕草でワイロを求め、しかしウィルはそれに素知らぬフリを決め込む。
ゴバイルを確実に破滅させられるなら、多少の経費も仕方はないが、その確証がない以上、無駄金となりかねない。
ウィルが袖の下を渡して来ないので、
「では、その話は本当なのか、証人に問い質すぞ」
役人は金にならない案件をさっさと終わらせようとする。
ストレートに罪状を問われ、素直に認める罪人はいない。二人の証人が否認を口にしたら、証拠不充分でウィルを追い払うつもりであったのだが、
「オ、オレたちは、ゴバイルって役人に頼まれ、こいつらを襲った。間違いはない」
ウィルらもこの展開を予想し、自らの罪を誤魔化さぬように体に教え込んである。
罪人の素直な告白に役人は渋面になり、
「しかし、これがスウェアの町の問題なら、あちらの役場に訴えるべきだろうに」
「オレたちは仕事の途中で、帰りはこいつらを運ぶ手立てがない。別にどこの罪人であろうと問題はないはずだが?」
「それはそうだが……」
「オレたちはこいつらを引き取ってもらえたら、それでいい。ゴバイルなり、スウェアの役場なりにどう話をするかは、何も関わる気はない。そちらで好きにしてくれ」
「ふむ。そういうことか」
役人が得心がいったという顔になる。
ウィルとてバカではないから、利を示さねば役人が動かぬことくらいは理解している。だから、身銭を切るではなく、証人の身柄を引き渡すことで、役人を動かそうとしているのだ。
今回の一件は、ゴバイル個人の犯罪であり、スウェアの町の役場の不祥事でもある。つまり、ゴバイルを脅すネタにも使えれば、スウェアの役場に優位に立つ材料にもできる。
金か出世、どちらにも化けるおいしい案件なのに気づくと、役人は態度を一変させ、罪人を引き取ってくれた。
当然、ウィルらとしては、これがキッカケでゴバイルの罪が明るみとなり、司直の手が孤児の売買に関わったグライスや犯罪組織にまで伸びるのが望ましいが、そこまではいかないだろう。
「あいつらのせいで無用な疑いをかけられた。腹が立ち、痛い目に合わせてやろうと思った」
そんな白々しい弁明をされたら、あくまで人を雇って暴行を加えようとした、ゴバイル個人の罪のみで終わってしまうが、それならそれで構わない。
少なくともゴバイルの立場はいちじるしく悪くなるが、これは事件が表面化した場合だ。
カサードの役場というより、担当した役人が内々に処理したケースなら、その役人はゴバイルから口止め料なりを請求するだろうから、ゴバイルの懷事情はそれなりに悪くなり、それはそれで痛手ではあるはずだ。
ゴバイルやグライスが伸ばして来た魔手をつかんでひねる。今のウィルたちにはそれ以上のやり用はない。
が、伸ばされた魔手をつかんでひねれば、そこから相手の体を引っ張ってたぐり寄せることができるようになる。
こちらの手が相手の心臓に届く位置まで。




