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まずは痛めつける。それでダメなら、殺す

「あんな小僧どもを逃がすとは、魔獣神の教団も存外、ふがいない! おかげで、こちらがヤツらを処理せねばならん! 何という、余計な出費かっ!」


「ゴバイル殿、声が大きいですよ。たしかに最悪、彼らを殺す必要がありますが、雑な仕事をして組織に見限られては大損なのをお忘れなく」


 忌々しげに吐き捨てるゴバイルに、グライスも内心の忌々しい気持ちを押し隠して、やんわりとたしなめる。


 グライスとゴバイルは、生還したウィルたちが提出した領収書のために危うい状態にあった。ただし、二人は罪人となって全てを失うという心配はあまりしていない。


 官権に疑惑の目を向けられれば、普通はしょっぴかれて力ずくで「悪事」を吐かされるものだが、それはそこらの平民に限った話だ。


 グライスは冒険者ギルドの中で、ゴバイルは役人として、それなりの地位にある。このような相手だと、いくら疑わしくとも、確たる証拠がないと逮捕することはできない。だから、知らぬ存ぜぬを決め込んでさえいれば、疑惑の目を向けられるだけで終わるだろう。


 ただ、官権に目をつけられていると、当然、犯罪組織の方がグライスとゴバイルを敬遠するようになる。


 犯罪ほど実入りのいい仕事はない。特に、フォケナスは十人の孤児を高く買いすぎたので、クレバーなグライスの目を眩ませ、何よりも犯罪組織を勘違いさせてしまった。


 フォケナスはエリクサーの販売で大きな収入のある一方、その教会は基本的に自給自足で運営されている。だから、魔獣神の供物に大金を払えるのだが、そこには一応、孤児たちのことを考えて大金を積んでいる一面はある。


 大金を積めば、孤児たちは高額商品となり、多少は大事に扱ってはもらえるからだ。


 ただし、グライスらにも犯罪組織にも、フォケナスの考え方は想像できるものではない。また、薄汚い孤児に大金を払ったことに対して、グライスらや犯罪組織がどう考えるかも、フォケナスは想像していなかったのであろう。


 グライスらも犯罪組織も、フォケナスを魔獣神の教団の者と勘違いした。フォケナスは魔獣神の聖印を首から下げているし、一個人が払えるとは思えない額で供物を買いつけているのだ。あるいは、本来なら捨て値でさばくような小汚ない孤児が高く売れたので舞い上がってしまったのかも知れない。


 たかだか孤児が思わぬ大金になったことに、グライスらも犯罪組織も冷静な判断ができなくなった。魔獣神の教団の規模からすれば、十人くらいの供物はすぐに使い潰し、すぐに次の発注がくるとの皮算用さえしている始末だ。フォケナスをそのような大口の取引先と勘違いしたからこそ、アシがつく可能性のある領収書を切ってしまったのだろう。


 普通なら、その領収書が流出した点について、魔獣神の教団からケジメを取るところなのだが、それで大口の取引が無くなっては大損だ。また初回の利益だけでウィルたちの処理費用が出るという点もあるのかも知れない。


 犯罪組織が今回のトラブル処理に採った方法は、グライスとゴバイルに押しつけるという実にシンプルなものだ。


 当然、グライスとゴバイルは犯罪組織のトラブル処理に不服ではあるが、不満を口にして組織との関わりを断たれては、犯罪に荷担しての実入りが無くなってしまう。特に、魔獣神の教団との大口取引があると思っている二人は、それにこれからも噛んでいくために、多少の身銭を切ってでも、ウィルたちが提出した証拠を無害なものにせねばならない。


「まずは痛めつける。それでダメなら、殺す。これしかないでしょう」


 冷徹なグライスの提案に、ゴバイルも異存はなかった。


 自分たちの息のかかった者を使い、ウィルたちを痛めつけて当人らに、


「仕事の失敗をとりつくろうため、あの領収書を捏造した」


 と証言させるようにする。


 そして、痛めつけても証拠品について何も言わねば、殺した後に証拠品をでっち上げて、ウィルたちこそが孤児を売り払った売人に仕立てる。


 権力を有するグライスとゴバイルにはそれが可能であった。


 無論、手持ちの手駒を使い、ウィルたちを痛めつけるか、殺すかできればの話だが。



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