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これだけでは逮捕に踏み切れないだろう

 フォケナスは強い。しかも、その根拠地の周りには多数の魔獣が棲息している。おまけに、フォケナスは闇の五大神の一柱、魔獣神の加護もある。兄弟姉妹、さらに神父様の力を借りても、カヴィたちを助け出せるかどうかわからないし、そもそもウィルたちにはカヴィたちを助け出すつもりはない。


 仮にフォケナスを倒せたとしても、カヴィたちに恨まれることになるだろう。カヴィたちにあそこ以上の環境を提供できる当てはウィルたちにはない。社会性に欠く点はあろうとも、あの教会はウィルたちがそうであったように、カヴィたちの新しき良き家ではあるだろう。


 ウィルが神父様に手紙を書こうとしているのは、フォケナスに対抗するためでもなければ、昔の知り合いであるフォケナスのことを伝えるためでもない。無論、フォケナスのことは手紙に記すつもりだが、それはついでのようなものであり、


「……申し訳ない。私が早とちりしたばかりに」


 恐縮して頭を下げるサリアは、ウィル、ユリィ、リタとセラが育った教会に、それぞれ四人が行方不明になったことを伝える手紙を書いて送っている。


 実際、ウィルたちはフォケナスにさらわれ、行方不明になっていたのだ。サリアとしては世話になったせめてもの恩返しに気を回したのだが、それが裏目に出た形だ。


 もちろん、ウィルたちは余計なことをして、と腹は立てていない。むしろ、サリアの早とちりに感謝しているくらいだ。


 フォケナスが天然気味ながら邪悪な人間でなかったから、ウィルたちは温泉饅頭を手に解放されたが、普通、邪教徒に捕まった場合、こんな展開にはならない。


 それを思えば、神父様らに行方不明の報が少しでも早く伝わるのは、ウィルたちにとっては命綱に等しいものだ。


 だから、ウィルやセラは訂正の手紙を書くことになっても、サリアを悪く思うことはなかった。


「それより、これからどうなると思う?」


「まあ、冒険者ギルドや官権にしても、これだけでは逮捕に踏み切れないだろう。問題は、心当たりのある二人だ。これが牽制になっておとなしくなるか、それとも過剰反応を引き出してしまうか。全ては向こうの出方次第だな」


 話題を変えるために、ユリィがウィルに振った内容は、冒険者ギルドに提出した領収書の件だ。


 フォケナスが解放する時に渡したのは温泉饅頭だけではなく、領収書も含まれる。もっとも、後者はウィルらが譲渡を望んだのだが。


 その領収書とは、フォケナスが組織から子供たちを買った際のものだ。人身売買をするやからなど信用できないので、念のために切ってもらった領収書が、今、それがウィルたちの命綱となっている。


 さすがに領収書には、売買に関わったグライスやゴバイルの名前など記載されていない。たた、この地方で有名な犯罪組織が子供十人を卸したという内容は読み取れる。ゆえに、今回の件に関わったグライス、ゴバイル、そして協力した教会に疑惑の目を向けることはできる。


 決定的な証拠ではないので、知らぬ存ぜぬを決め込まれたら、疑惑の段階で立ち消える公算は高い。しかし、疑われてグライスらがおとなしくなれば、ウィルたちの身も安全となる。


 逆に疑われて逆上すれば、決定的な証拠を握るチャンスになるかも知れない。


 ただ、領収書に記されていた額を見ているウィルらは、グライスらとの関係が波風の立たないもので落ち着くとは思っていない。


 犯罪組織がいくら仲介料を抜いたかまではわからないが、孤児十人を売り飛ばして得た額、濡れ手に粟を体験したグライスとゴバイルが、二匹目のドジョウを求めるのは想像に難くない。そのために邪魔なウィルたちの排除に着手するだろう。


 だが、グライスらが保身よりも利益に目が眩んでいるように、ウィルたちも怒りに目は眩んでいる。


 保身だけを考えるなら、ウィルたちはスウェアの町から出て、別の場所で冒険者をやればすむ。しかし、孤児の売買に関わったとはいえ、フォケナスのような人物ならまだ許容できるが、自分の利益のためにかつての自分たちの不幸を売り物にしたグライスたちは絶対に許すことはできない。


 無論、グライスやゴバイルをうまく破滅させても、さらにはこの地の犯罪組織を仮に壊滅させることができても、この手の不幸がなくなるわけではない。ウィルたちのしようとしていることはある意味では不毛であり、神父様やフォケナスのしていることにこそ手本とすべきだろう。


 だが、賢くない選択とわかっていても、ウィルたちはそうせねば自らの怒りを抑えようがない。


 サリアも、あえてグライスやゴバイルといった権力を有する側に盾つく行為に対して、何か言いたげな顔となりつつも結局は賢くない選択と行為を黙認することにした。

 

 自らの生い立ちが絡む話にウィルたちが冷静さを欠くのは、今回の依頼を受ける時に経験ずみだ。何を言っても無駄なのがわかっているサリアは、内心で嘆息しつつも何も言うことなく、黙って温泉饅頭を頬張った。


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