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賠償金くらい何とかなるんじゃありませんか?

「……この菓子は、いったい、何なのですか?」


 サリアは口にした温泉饅頭のあまりの甘さとうまさに、目を丸くする。


 いや、甘さ、うまさだけではなく、その二十個入りのお土産物は、様々な点がこの世界ではあり得ないものであった。


「この箱も、一個一個をくるんである物も、造りはもちろん、材料はいかなるものですか? それに菓子の造形も、どうやったらここまで同じに作れるんです?」


 それはこのお土産物を持って来たウィルたちも知りたい疑問である。


 邪神の信徒に敗れ、その本拠地にさらわれたウィル、セラ、ユリィ、リタが、スウェアの町への帰還を果たしたのは、つい先日のこと。


 当然、自力脱出したのではなく、解放されての話である。


 神々の大戦のためにパコパコ温泉に出かけた魔獣神とフォケナスは、予定どおりに戻って来て五体満足だったので、ウィルたち四人はお土産物を渡されると、その日の内にカヴィたちと別れのあいさつをすまし、スウェアの町の近くまで送ってもらえた。


 その送り届けてもらうまでの短い時間、四人にフォケナスが語ったところ、フォケナスは戦女神と竜姫神に勝利したそうだ。


 もっとも、戦女神は温泉に着くや風呂の中でしこたま酒を呑み、竜姫神は一回戦に勝利した後、二回戦が始まるまで缶ビールを何本も空けた結果、人間ごときに遅れを取ってしまったのだが。


 ただ、三回戦で相対した暗黒神はマイラケットを持参し、大戦前日まで運動体育館でそのマイラケットを振るっていたのは伊達ではなく、フォケナスはストレート負けを喫した。


 人間が相手でも浴衣の帯を締め直す暗黒神が順当に勝ち進み、優勝して大戦が終了した後、神々はそのまま宴会に突入し、そこにフォケナスも加わったのだが、


「料理はおいしことはおいしいのですが、舌先に痺れや不自然な苦味のようなものを感じることがありました」


 その際に舌に覚えた違和感は、化学調味料や残留農薬によるものなのだが、あくまでこの世界の住人でしかないフォケナスにはそのようなことはわからない。


 だが、賢者の石を使って不自然なまでにヘルシーな食材を育てているフォケナスは、神々の御前に並んだ料理の数々が健康的に「良くない」のを感じたのだ。


 とはいえ、どんちゃん騒ぎにふける神々に不粋なことを言い出せるものではなく、結局、彼はカヴィたちのお土産物は食べ物を避け、置物や玩具ばかりとした。


 ウィルたちのお土産物も置物にしようともフォケナスは考えたが、それでも温泉饅頭にしたのはウィルたちが解放した後のことを考えてのことだ。


 旅館のお土産物コーナーにある全てが、フォケナスの見たことのない物ばかり。社会から隔絶されているフォケナスの教会ならばともかく、スウェアの町に戻ったウィルたちがこの世界に存在しない物を所持していた場合、どんなトラブルの元になるかわからないので、食えば無くなる物を選んだのだが、


「おいしことはおいしいですが、私見を述べれば体に少し良くないようなものと思われます。ただ、少し良くないだけで、食べて体調を崩すものではありません」


 保存料や着色料が入っているのだから、よろしくはないことはないのだが、食ってただちに体を悪くするほどのものではない。


 かくして、温泉饅頭を手に解放され、スウェアの町に戻って来たウィルたちは、しかしその足で向かったのはサリアの元ではなく、ベルリナの元であった。


「けど、これは自分たちで食べるのはもったいなさすぎますよ。売り払えば、賠償金くらい何とかなるんじゃありませんか?」


 ベルリナの元というより、まず冒険者ギルトに向かったのは、四人が子供たちの護送の依頼を受けていたからである。


 当然、フォケナスの元に子供たちが残ったのだから、四人は仕事に失敗したということになる。


 依頼を果たさねば報酬を貰えないのだが、失敗の報告をしないわけにはいかない。何より、赤字額を早目に知っておかねば、金策のしようもない。


 失敗しただけならタダ働きですむ。消耗した装備も、短槍が一本、噛み砕かれただけで、ここまでなら大した痛手ではない。しかし、失ったというより、マンティコアに喰われた荷馬二頭分の賠償金となると、けっこうな額となる。


 不幸中の幸いは、林の側に残っていた荷車は回収できた点だが、それでも荷馬二頭の代金となると安くはない。報告がてら、ベルリナにざっとした額を算出してもらったのだが、貯蓄をだいぶ失う結果に、四人は嘆息するしかなかった。


 だから、サリアの言うように、温泉饅頭を売り払って賠償金の捻出を考えなくはなかったが、さすがにそれは危険すぎると思い留まった。


 さすがに神々の大戦に出かけた邪教徒のお土産などと、荒唐無稽にしか思えないどころか、正気を疑われる説明をするわけにはいかず、サリアには「さらわれた先から脱出する際に失敬したもの」と言ってごかましてある。


 今回の仕事の失敗は痛すぎる出費ではあるが、フォケナスほどの相手と戦い、命があっただけでも良しとするしかない。


 だから、温泉饅頭を自分たちで処理することにサリアを何とか納得させたウィルは、


「それより、神父様に手紙を書く方が先決だ」



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