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……これが結界……

 フォケナスの教会、実質的な孤児院は、魔獣神と戯れるだけで三食が与えられる場所ではない。


 朝食後、ひとしきり魔獣神と遊んでから、子供たちは礼拝堂に集められ、読み書きを学ぶのを日課としている。


 この世界の識字率は高くない。だが、それゆえに読み書きを習得すれば、仕事や生活で大きなアドバンテージを得られる。


 ちなみに、教会で育ったウィル、ユリィ、リタ、それとセラは、一応は読み書きができるが、孤児院を兼ねた教会が皆、孤児に読み書きを教えるわけではない。


 読み書きができないよりできる方が将来的にも良い。だが、平民の子供は、教材に触れることなく大人になる者が大半だ。カヴィたちもフォケナスに買われるまで、多数例に属していた。


 まったく下地のない子供に読み書きを教えるのはカンタンなことではないが、フォケナスは子供たちの将来のために労を惜しむことはなかった。


 普段なら、勉強の邪魔となるので、この時間、魔獣神は一柱で散歩しているのだが、この日はそれにウィル、セラ、ユリィ、リタが同行していた。


 ケンカのバツでやらされていた朝食の片づけも、ユリィとリタは終わらせている。リタにしても、思ったより精神が不安定になっているのを自覚し、仲間に率直に頭を下げている。


 フォケナスはそれ以上、ケンカのことを咎めなかったが、ウィルたち四人に魔獣神と行動を共にすることを求めた。


 さらわれたばかりの子供らの中には、紙やペンを持つのが初めてな子もいる。カヴィたちもまだある程度の読み書きができるレベルだ。


 子供たちの習熟度を思えば、フォケナス一人で教えるよりも、ウィルたち四人も子供らに教えた方が効率は良いのだが、フォケナスは目先の効率よりも将来のことを選んだ。


 間もなく起きる、次の神々の大戦。その場でフォケナスは魔獣神の代理として、戦女神と戦うことが確定している。


 ヘタな魔王より強いフォケナスだが、戦女神、大神の一柱ともなれば、魔王が束になっても勝てないほど強い。勝敗は火を見るより明らかだ。


 神々の戦いとはいえ、神ならば傷つきこそすれ、生還できる可能性はある。しかし、人の身では、生き残れる望みなどまずないだろう。


 仕える神のために身命を賭すのが、信徒の役割。フォケナスは己の命惜しさに信仰を捨てることはなかったので、ウィル、セラ、ユリィ、リタは魔獣神と共に散歩しているのだ。


 フォケナスにとって、死後、最も気がかりなのは、言うまでもなくカヴィたちのことである。


 神は強大だが万能ではない。


 魔獣神のその肉球の前には魔王すら屈服するだろう。だが、どれだけの力のある肉球だろうが、その前肢ではカヴィたちのゴハンを作ったり、衣服をぬったりはできない。


 しかし、いかなる運命の導きか、彼は後事を託せる存在、神父さんとつながりを持つ、ウィルたちと邂逅した。つまり、ウィルなりを通じて、神父さんにこの教会のことを頼めば、後顧の憂いなく魔獣神のために死ぬことができるというもの。


 万が一、フォケナスが生還できたとしても、神々の大戦が決着を見るまで教会に不在となるのだ。共に不在となる魔獣神が、この地の安寧を保っている結界を張り直すのも、留守を頼むウィルたちに結界の存在を告げたのも当然のことだろう。


 この教会のある地の四方には、言うまでもなく数多の魔獣が棲息している。


 知能の高い魔獣なら、魔獣神やフォケナスが睨みを効かせればおとなしくしている。しかし、後先を考えられないくらい知能の低い魔獣は、子供を食らう恐れがあるので、魔獣神が結界を張り、魔獣が侵入できぬようにしているのだ。


 トコトコと歩く魔獣神を先頭に、ウィル、セラ、ユリィ、リタは教会のある高原の端、魔獣たちの気配を感じる山林の前までやって来ると、闇の五大神の一柱は立木の一本の前で足を止めた。


 歩みを止めた魔獣神は右後ろ足を上げ、


 シャアアア


「……これが結界……」


「っていうか、単なるマーキングじゃね?」


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