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神々の大戦に参加できますよ

「そう言えば、先程、初見で、と言われましたので、タネ明かしさせてもらえば、今からざっと千年ほど前になりますが、私は神父さんと面識があるのです。正確には、神父さんと戦い、敗れたのですが」


 フォケナスは神意保持者である。仕える神が滅するか、神より見放されない限り、事実上、不老不死の身だ。千年どころか、一万年でも二万年でも生き続ける。


 子供の頃から容姿がまったく老いていかない神父様の姿を知っているウィルは、千年以上も生きていると言われて「まあ、そうだろうな」とむしろ得心する。


 ただ、神父様と面識があるという点には軽く目を見張ったが。


 敬愛する神父様と敵対したというが、そう告げるフォケナスからは敗北の記憶に対する遺恨は感じられず、


「ここが色々とおかしいのは、神父様の影響なのか?」


「何がおかしいのかはともかく、神父さんに敗北から学んだことを活かしているのは否定できませんね」


「昔の神父様か。どんな感じか、けっこう気になるな」


「私はあの時以来、会っていませんから、今の神父さんというのがわかりませんよ。今と昔の違いと聞かれても、答えようがありません。ただ、私は今も昔も変わっていないと思いますが」


「そいつはオレも同感だ」


 傍らにいるセラが眉をひそめるほど、育ての親である神父様の話題になった途端、ウィルの警戒心が目に見えてゆるんでいた。


 もし、いきなり神父様のことを話されても、カンタンに気をゆるめることはなかっただろうが、ここに来てから先入観をぶち壊される展開の数々があったればこそ、ウィルも無意識に警戒を解いたのだろう。


 セラにしても、変わっていると思いこそすれ、フォケナスを邪悪な人間とはもはや考えていない。魔獣神に仕える者を認めるのは業腹だが、カヴィたちがその庇護の元、平和に暮らしているのは否定しようのない現実だ。


「けど、あんたと神父様の戦いか。そいつは見てみたかったな。いや、正確には神父様の本気ってのを、一度は見てみたい」


「今の私でも、まだ神父さんに通じないでしょう。それと、あの時の勝負は、見るだけではわからないでしょう。味わってもらわねば」


「どういうことだ」


「ああ、なるほどなるほど。勘違いしているわけですか。私は元々、料理人ですよ。神父さんに敗れたのは、料理対決によるものです」


 斜め上の勝負内容だが、食事の際のレパートリーの多さを思えば、納得できる部分はあるが、


「しかし、言っちゃあ悪いが、千年かけてあの味ってのは……」


 フォケナスの料理はそこそこうまいのだが、極上の美味というわけではない。


 千年かけた味に対する酷評に、しかしフォケナスは遠い目となって苦笑を浮かべ、


「かつての私もそう考えていました。料理とは、ただ美味しければ良い、と。ですが、それがいかに浅はかな考えであるか。神父さんはあの時の勝負を通じて私に教えてくれたのです」


「神父様はどのように考えているのだ?」


 ウィルが育った孤児院で、神父様は料理をしないわけではなかったが、基本的に炊事を含む雑事は孤児たちがこなしている。


 神父様の手料理を口にしたことはあるが、やはりそれなりの味だった。兄や姉の中にはずっと料理のうまい者がいて、ウィルは彼らの担当の時の食事の方を楽しみにしていた。


「言われて、いえ、気づけばカンタンなことなんです。私も料理に関しては、宮廷料理人に負けないぐらいの自負はあります。ただ、子供たちはずっとここで暮らすわけではない。なのに、美食に慣らされては、ここから巣だった後の生活に支障が出てしまいます」


 フォケナスがその気になれば、極上の美食を作ることができるが、それを毎日、しかも子供の時分に食べていれば、フォケナスの元から巣立ち、普通の生活を送るようになった際、普通の料理では物足りないか、あるいは耐えられなくなる。


 少しうまいだけの飽きのこない味。フォケナスのその方針はたしかに現実的だ。


「あの時の勝負で、私の料理の方が神父さんのそれより美味でありました。しかし、神父さんは味で劣ろうが、相手のことを考えた味つけをしました。人を思いやる心。そんな基本を欠いていた私は敗れたのです」


 ウィルの兄や姉の中には、かなり料理の腕が立つ者がおり、子供の頃、ウィルは彼らがずっと料理を作ってくれたらと思っていたが、神父様はそれを絶対に許さなかった。


 今までそれには不満を抱いていたが、神父様の真意を知り、自分の浅はかさにウィルは内心で己を恥じた。


「ちなみに、その時の勝負の審査員の中には我が神がおられました。敗北して、うちひしがれる私にお声をかけていただいたのが、今に続く縁となったのです」


 正しくの神前試合。ウィルもセラも他の審査員の顔ぶれが大いに気になったが、それもフォケナスの次の言葉で吹き飛んだ。


「しかし、神父さんが健在で、あの方と通じる者と接点が持てたのは、本当にありがたい。これで我が神も私も後顧の憂いなく、再び起ころうとしている神々の大戦に参加できますよ」



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