その子供のように殺す気なのか?
夕食ほどでないにしろ、朝食も朝食で七品目も並ぶ多彩さであった。
もっとも、その多彩な朝食は夕食以上に子供の半数を戸惑わせてもいた。
戸惑う理由は明白だ。カヴィたち前からいる子供にしても、来たばかりの頃は戸惑いが先に立ち、朝食にすぐに手をつけることはできなかった。
この世界は一日二食しか食えない貧しい人間の方がずっと多い。子供たちのほとんどがそんな貧しい生まれで、さらに一日一食しか食えないより貧しい生まれの子供も数人いるくらいだ。
だから、昨日、来たばかりの子供たちが朝食に戸惑うのは当然の反応だが、それもカヴィたちに勧められると、ためらいながらも手をつけ出していく。
半数に戸惑いこそ見られるが、子供たちが朝食の手を進める一方、子供たち以外の手は明らかに止まっていた。
気絶しているユリィとリタは、食堂の片隅で横になっている。また、別の片隅に置かれた皿に盛られた残飯の前には、黒い子犬、魔獣神の姿がなかった。
そして、フォケナスが「少し所用をすませてきます」と席を立って食堂の勝手口から外へと出て行った。
「どうしたんだ、兄ちゃん?」
カヴィがそう聞いてきたのは、ウィルが朝食の手を止めて何やら考え込んでいるからだ。
言うまでもなく、この教会の、いや、フォケナスのことはわからないことだらけだ。聞きたいことを聞いても、答えが返ってこない。
問いに対して何も答えないというわけではなく、はぐらかされているようにも感じるが、一方で説明に必要な前置きで時間を取られて、核心にまだ触れていないだけと思えなくもない。
ともあれ、ここにフォケナスと魔獣神がいないのだ。それはどこかで、子供たちの目に触れさせてはならないことを行っている可能性がある。
その点に少し遅れて気づいたセラの手も止まったので、ウィルは彼女に目配せする。
「オレら、少し外すから、二人が起きたら頼むな」
隣に座るカヴィに声をかけて席を立つと、セラも無言でそれに
倣ったので、
「……若いから仕方ないかも知れないけど、ひかえてくれよな、兄ちゃん」
男女での連れ立っての行動に変な想像をしたのか、カヴィが小声でそんな注意をしてきたので、セラは顔を赤くしてしまう。
食堂を出たウィルとセラは人気のないところにしけ込むようなマネはせず、二人はフォケナスを追って外へと出て行く。
教会の周りを少し歩くと、すぐにフォケナスを見つけることができた。
フォケナスは闇の五大神の一柱、魔獣神の御殿、フォケナスの腰ほどの高さの、ごくスタンダードな犬小屋の前にいた。
魔獣神のために用意される食事、エサを思えばこの犬小屋も今更のものなので、それだけならウィルやセラとて特段、驚くことはなかっただろう。
しかし、犬小屋の前に小さな、本当に小さな上着が脱ぎ捨てられている上、
「……知ってしまったようですね。我が神の最大の秘事を」
二人の気配に気づいたフォケナスのセリフが、ウィルとセラを驚かせ、それ以上に警戒させた。
もちろん、警戒しようがしまいが、フォケナスがその気になれば、二人を目にも止まらぬ早さで手刀を打ち、ダウンさせることなどわけはない。
食堂には子供がきちんと二十人いた。だが、ウィルたちはこの教会を隅から隅まで知っているわけではない。ウィルたちの知らぬところでウィルたちの知らぬ子供がおり、その幼い命が今、邪神に捧げられたのなら、
「……カヴィたちもいずれ、その子供のように殺す気なのか?」
「何を言っているのですか?」
ウィルの問いに、振り返ったフォケナスは眉をひそめ、首を傾げる。
「その服。生贄にした子供のものじゃないのかっ!」
「この服は、ドッグウェアですよ。見ればわかるでしょうに」
言われて、落ちている上着をよく見てみれば、人が着るには少し形が、特に肩口の位置がおかしいのに二人は気づく。
ドッグウェアとは、文字通り犬に着せる服で、一部の王侯貴族や金持ちが飼い犬に着せている。
フォケナスが子供たちの衣服をぬうのみならず、仕える神のためにドッグウェアを作ったのだろうが、
「乱暴なマネは好みませんが、この事を他言するなら、私はあなた方を殺さねばなりません」
フォケナスほどの実力者が殺気を込めた言葉。セラは思わず腰が抜けそうになり、ウィルも心臓をわしづかみにされたかのような、得たいの知れぬ恐怖が全身を駆け巡る。
強い恐怖を味わったがゆえ、戸惑いも強くなる。
生贄の儀式を知ったというなら、脅されるのもわかる。だが、魔獣神が脱ぎ捨てたであろうドッグウェアにいかなる秘密があるのか? フォケナスの口調と態度から、その秘密をもらせば容赦なく殺しにかかるのは明白なので、
「い、いったい、どういうことだっ! そのドッグウェアにどんな、どんな秘密があると言うんだ!」
「何と愚昧な。自分たちが虎の尾を踏んでいることに気づかぬとは……ですが、かえって危険ですね。知らぬがゆえ、思わぬ形でこの事をもらされてもたまりません。このようなおぞましきことを話さねばならぬとは……不本意なのですが……」
大いなる苦悩を顔ににじませ、大きく嘆息してから、ようやく重たげながら口を開く。
「……あろうことか、我が神は……我が神は、露出の快感に目覚めてしまったのですよ」
「ワンワン」
忠実なる神意保持者の解釈に、魔獣神は犬小屋から飛び出し、抗議するかのように吠えたてた。




