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何の意味があるんだ?

「前置きが長くなりましたが、神々の大戦の原因、これは端的に言えば、生きとし生ける者をどうするか。この点についての対立が理由です」


 世界の、そして神々の秘密を語られ、呆然となるウィル、セラ、ユリィ、リタに、フォケナスは更なる秘密を語り聞かせる。


「神々は世界を創造したが、完成させたわけではない。世界をより良いものとするため、世界のリフォーム工事を行うことにしたのです。しかし、リフォーム工事を行うに際して、邪魔な存在があった。それが今の世に在る生きとし生ける者の先祖です。大規模な改修工事を行っている間、家人がそこで暮らせないようなものですかね」


 柱が残っていたとしても、壁や床板、天井がない家に人は暮らせない。リフォーム工事が終わるまでは仮の家を用意するまでだが、当座の間、生きとし生ける者が暮らす仮の世界を用意するとなると、スケールと手間が違いすぎる。


「……つまり、神々であっても、別に人が暮らせる世界を用意するのは不可能だったということか」


 不遜なるウィルの指摘に、しかしフォケナスは困り顔で首を左右に振り、


「それが不可能なら、神々も対立しなかったでしょう。しかし、可能であっても面倒だったから、激しい言い争いになった」


「面倒だから、我々の先祖を根絶やしにしても良い。つまりは、そう考える神がいたということですかっ!」


 信じられないといった表情で叫ぶセラに対して、フォケナスは沈痛な表情で再び首を左右に振る。


「……神々にとって、我々の先祖は勝手に住み着いた不法居住者にすぎない。言うなれば、自分の家に無断で入り込んで寝ている浮浪者も同然なのです。そんな相手に、追い出して野垂れ死にしたら可哀想だから、別の寝床を用意してやった方がいいと考える神々が、半数強はいたのです。むしろ、慈悲深いと思うべきでしょう」


「つまり、闇の神々は我々の先祖を見殺しにしても良いと考えたから、神々の大戦は起きたわけか」


「たしかに、それに消極的に賛成する闇の神はいました。ただ、根本的に考え違いしているようですが、神々の大戦はたしかに光と闇の神々による戦いですが、光の神々が一つになって闇の神々と戦ったわけではありません」


 ユリィというより、今の世界の誤認を真っ向から否定したフォケナスは、


「面倒だし、創り直した世界でも代わりとなる生命が勝手に発生するだろうから、このままリフォーム工事をすればいいと主張したのは創造神であり、それに積極的に賛成したのは地母神のみ。ただ、地獄神と我が神も消極的ながら賛成しました。ですが、我が神を弁護させてもらえば、暗黒神のようにノーと言える神ではなかっただけで、積極的に生命をないがしろにする神ではないのです。その辺りはわかってもらいたい」


「……な、な、何ですか、それは! では、我が神が数多の生命を見殺しにするのに賛成したというのですかっ! そんなこと、あるわけがありません!」


 フォケナスが魔獣神をフォローしたように、セラにとって信じる神について語られた内容は、絶対に許容できるものではなかった。


 食ってかかるセラに対して、フォケナスはそれを涼しい顔で受け流し、ウィル、ユリィ、リタは口々になだめて何とか落ち着かせる。


「後は陣容に違いこそあれ、大神が四対五の構造は同じで、不利な戦況をひっくり返すため、創造神は三つの暴挙を行わせ、破壊神の参戦によって戦いも世界もご破算になったという結末も、変わるところはありません」


「で、その長い説明に何の意味があるんだ?」


 フォケナスの語る創世神話が真実であろうと大嘘であろうと、ウィルたちの現状に無関係なら意味はない。


 わざわざ長い説明をしたフォケナスの意図、それこそが重要というもの。


「カンタンな話ですよ。これから共に暮らすにあたり、誤った先入観を正しておきたかっただけです。我が神は押しに弱いという欠点はありますが、その性質は穏和で良識的であるとわかってもらえねば、無用な警戒と偏見で互いが不幸となりかねません」


 魔獣神のイメージと言えば、粗暴で好戦的というのが一般的である。フォケナスの与太話ひとつで修正できるものではない。


 そして、フォケナスの与太話はこれより更なる飛躍を見せる。


「つまり、自分が信仰するのは、決して邪悪な神ではないと言いたいのか?」


「ああ、そうでしたね。紹介がまだでした」


 確認するようなユリィの言葉に、フォケナスは視線を広い食堂の片隅に向け、


「あそこにおられるのが我が神、魔獣神であられます。我が神は気さくな神格の持ち主なので、肩肘を張る必要はありません。自然体で接してください」


 夕食の残り、つまり残飯を食べていた、愛らしい黒毛の子犬は忠実なる信徒の視線に気づき、その牙を振るうのを止めると、クリクリした円らな黒い瞳を向け、これからよろしくと言わんばかりに、可愛く「ワンッ」と一つ鳴いた。

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