どういうつもりだ?
「さて、では脱いでもらいましょうか。ああ、そこの黒羽人はもういいですよ」
外と同様、中も何の変鉄もない教会らしく、ありきたりな礼拝堂に案内された四人の捕虜と十人の供物に対して、フォケナスは脱衣を要求した。
すでにフォケナスは自室に立ち寄り、黒い神官服とパンツをまとっており、ウィルに奪った衣服を返している。
「……どういうつもりだ?」
問うウィルは、返してもらった服を着ており、万全の状態に戻っている。
もちろん、万全な状態で臨もうが、ウィルではフォケナスをどうすることもできない。だが、返答次第では、勝てぬのを承知で戦わねばならないだろう。
「難しい話ではありませんよ。周りを見ればわかると思いますが、近所に服屋がありませんからね。皆さんの替えの服をぬうしかありません。着たきりすずめは良くありませんし、供物の格好はあまりに酷い」
ウィル、セラ、ユリィ、リタの荷物の中に替えの下着はあるが、替えの服はない。借家には何着か置いてあるが、長旅ならともかく、近場での仕事の場合、かさ張るので着たきりすずめでいるのだ。
子供たちの方となると、替えの服がないのはもちろん、着せられている服そのものがボロい。
「服を着たままでもだいたいのサイズはわかりますが、やはり直に裸体を見た方が正確な数字がわかりますからね。なので、服を脱いでもらいたいのですよ」
「その言い方だと、あんたが自分でぬうように聞こえるんだが?」
「ええ。ぬいますよ」
当たり前にフォケナスは言うが、服をぬうというのは当たり前にできることではない。
ウィル、セラ、ユリィ、リタとて、破れた服をぬって直すくらいはできる。服の修繕なら当たり前のようにできる者は多い。しかし、服を一からぬって作るというのは職人の域であり、誰でもできる芸当ではない。
「さっき、干してある洗濯物を見たでしょう。あれは全て私の作品ですよ。だから、安心して脱いでください」
繰り返し脱衣を要求するフォケナスだが、そこにいやらしい響きはない。職人のように服をぬえるだけあり、純粋にサイズを見て服をぬいたいだけかも知れないが、おいそれとうなずける要求ではない。年頃のセラ、ユリィ、リタなどは特にそうだろう。
ちなみにウィルは服を奪う際に裸体を見ているので、改めて裸にする必要がないのだ。
「あと、裏手に井戸があるので、体を拭いてきてください。それと、今、着ている服は洗濯してください。古着がありますから、当面はサイズの近いもので我慢してくださいね」
汚い格好でいるより、体も服もキレイな方がいいので、ウィルたちは無意味に反発するつもりはないが、
「それなら、今、着ている服のサイズを参考にすればいいだけではないのか? 洗濯するのに脱ぐのだから」
「ああ、なるほど」
ユリィの指摘に、フォケナスはぽんっと手を打つ。
そうして納得した邪教徒は、
「では、着る物を用意してきますので、先に井戸に行ってください。裏手に回れば、すぐに場所はわかると思いますので」
捕らえた者に背を向け、礼拝堂から出て行く。
この教会が建つ高原の周りを思えば、放置してもたしかに逃げられる心配はない。が、たしかに心配はないのだが、フォケナスのあまりにずさんな管理体制に、ウィルたちも逃走を一考せずにいられない。
しかし、逃走を試みるには早計と判断し、ウィルたちはおとなしく教会の裏手に回った。




