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自分の肉体に自信がないものですから

「我が神に捧げる供物。このままでは、あまりに失礼ですので、もう少し何とかしましょうか」


 そう言うや、フォケナスは眠る子供たちの方に歩み寄ろうとする。


「……ウィル! ユリィ……リタ……」


 邪教徒が子供たちに手を伸ばさんとする事態に、セラは三人の仲間に助けを、何とかしてくれるように求めるが、敗北感に打ちのめされているウィルもユリィもリタもうつむき、己の無力さと愚かさを噛み締めるのみ。


 気を失ってはいたが、睡眠で気力が回復しているのは、ウィル、ユリィ、リタも同様である。おまけに、三人は武器や防具を取り上げられておらず、噛み砕かれたリタの短槍以外はそのままだ。


 しかし、武器や戦う手段があろうが、立ち上がる意志がなければ、何の意味もない。


 頼みとする仲間の姿と反応は、セラの心もへし折り、フォケナスを睨みつけることさえできず、顔を伏せてしまう。


 もっとも、セラの視線や敵意など気にすることなく、フォケナスは一人の子供の前で自らの神に祈り、


「魔獣神よ! この者のかつての姿! 失われしものを取り戻させたまえ!」


 その子供がゴブリンに切り落とされた右手首と左足首を元に戻す。


 セラなどがまだまだ及ばない再生の御業だが、それより高度な蘇生の御業が使えるフォケナスなら、使える点そのものには不思議はない。


 不可解なのは使ったかというより、なぜ子供が負った欠損を元に戻したかである。


「……何を考えているのですか?」


「我が神にこのようなキズモノを捧げるなど、失礼というものですよ」


 セラの問いかけに、フォケナスは事なげに答える。


「とりあえず、あなた方には供物を落ち着かせてもらいましょうか」


 フォケナスの指摘するとおり、右手首と左足首が元に戻ったその子供は、失ったものがまた戻った違和感に目を覚ますや、自らの右手首と左足首を落ち着きなく交互に見て、訳がわからずにおろおろとする。


 邪教徒の求めるところではあるが、動揺する子供をそのままにするわけにはいかず、セラはその子供を落ち着かせようと声をかける。


「その調子で供物の方はお願いします。何なら、あなたの羽も戻しましょうか?」


「そいつは無理だ。ありがたい申し出だがな」


「私の力を借りるのはゴメンというわけ……ではないのですね。その片翼は生まれつきのものですか」


 蘇生や再生といった御業を用いれば、失われた肉体の一部、さらには魂さえも取り戻せるが、この世界の理は失われたものを取り戻すことを可能としていても、最初からないものはどうすることもできないとしている。


 ウィルの欠損している片翼が、何らか事故や病によるものなら、彼を育てくれた神父様が元に戻してくれていただろう。だが、先天的な欠損、生まれつき欠いているウィルの片翼は、神父様やフォケナスがどれだけ祈ろうとも、黒い羽を二枚にすることはできないのだ。


 つまり、この世界では生まれつき目の見えない者は、どのような御業を用いてもらおうとも、生涯、何かを目の当たりにすることはできないのである。


「それより、オレの服、返してくれない?」


「それはゴメンしてもらいますよ。私は自分の肉体に自信がないものですから」


 先の戦い、ウィルたちは持てる力を出し切り、その全てをフォケナスにぶつけたが、まったくダメージを与えることができなかった。


 ただし、それはフォケナスにまったく損害を与えられなかったのと同義ではない。ウィルたちの攻撃、正確にはリタの召喚したサラマンダーらの炎の吐息によって、フォケナスのまとっていた衣類は完全に燃え尽きているからだ。


 当然、服を失ったフォケナスは替わりを求め、ウィルを脱がしてその上着とズボンを奪ったが、身ぐるみを全てはがしたわけではない。


 今、ウィルはパンツ一枚で革の鎧をまとっている状態にある。


 そして、全てを奪わなかったフォケナスは、言うまでもなく今、ノーパン状態にあった。


「とはいえ、ずっと拝借するわけにはいきませんから、我が神の御元に着いたら、お返ししますよ。何なら、ちゃんと洗ってから」


 フォケナスには力ずくで衣服を奪うだけの実力があるが、ウィルには力ずくで衣服を奪い返すだけの実力はない。


 そのフォケナスはこの世界の最高峰に至った御使いである。血縁と肉体の一部を失った子供たちに対し、魔獣神に何度も祈りを捧げて、子供たちを次々と五体満足な孤児としていく。


 セラ、ユリィ、リタと共に失った耳目や手足などが復元して驚く子供たちをなだめながら、ウィルは反撃の機会をうかがい、その成否を心の中で検討する。


 何度も再生の御業を使い、フォケナスの精神は再び疲弊したはずだ。もしかしたら、超獣人となれるだけの気力は残していないかも知れない。


 だが、敗れたりとはいえ、一度は手合わせしたウィル、ユリィ、リタは、超獣人となれねばフォケナスに勝てると、短絡的に考えたりしなかった。


 ウィルたちの攻撃が効かなかったのは、超獣人の能力ゆえだろう。超獣人となり、パワーやスピードもアップしていただろう。だが、先の戦いの終わり際、ウィル、ユリィ、リタをあっさりと気絶させたのは、超獣人であったからではない。


 一度のみの敗北と手合わせであっても、フォケナスに気絶させられたのが、動きを見切られたがゆえであるのを痛感している。そして、その時のフォケナスの動きを体感しているウィル、ユリィ、リタは、フォケナスは超獣人とならずとも、体術のみで自分たちに勝てるだけの実力を有しているのも理解していた。


 何より、復元を終えた子供たちがある程度、落ち着いたのを見計らったように、フォケナスは独特な口笛を吹いて、新たな魔獣を呼んだ。


 ロック鳥。


 端的に言えばバカでかい鳥なのだが、そのサイズは三十メートル強に及び、ヘタなドラゴンよりずっと大きい。その巨体に加え、巨大なくちばしは硬いドラゴンの鱗を突き破るだけの攻撃力を有し、ヘタなドラゴンよりも強い、バカでかい鳥なのだ。


 おそらく、運搬用に呼んだのだろうが、フォケナスがどれだけの隠し玉をまだ残しているかかわらない。新たな魔獣が来て戦力が強化された上、フォケナス自身が隙を見せない以上、ウィルたちはおとなしく従うしかなかった。


 だから、ウィル、セラ、ユリィ、リタは、木々をその巨体で薙ぎ倒しながら着陸したロック鳥の背に、怯える子供たちをなだめつつ、戻ったばかりの手足でよじ登るのを手伝うしかないのだ。


 フォケナスに逆らう術がない以上は。


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