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あんまりノンビリできないのですがね

「見逃してくれようとしたのに申し訳ないが、こちらはあんた見逃すようなマネはしない。ただ、おとなしくすれば、痛い目をあわせるつもりはない」


 マンティコアを討ったウィルは、手にする槍でセラをつつき、眠れる女神官を起きて動けるようにしてから、フォケナスに降伏勧告を行う。


 言うまでもないが、フォケナスを見逃すという選択肢は、ウィルたちにはなかった。


 孤児という、頼るべき親も家族も持たない子供を食いものにする行為に、フォケナスは荷担したのだ。幼き日に神父さんに出会い、拾われておらねば、荷台の子供たちのように暗い表情でうつむいていたかも知れないウィル、ユリィ、リタにとって、今回の件に関わっている者たちは許せるものではない。


 だが、ゴバイル、役人も関わっているような案件である。仮にフォケナスを官憲に突き出しても、その罪が明らかになるどころか、闇から闇に葬られ、ヘタすればフォケナスも知らぬ間に釈放され、何もないかのように処理されかねないので、


「とりあえず、今回の件で知っていることを全てしゃべってもらおうか。もちろん、証拠の類があるなら、それも全て出してもらう」


 うやむやにされぬよう、可能な限りの証言と証拠を要求するウィル。


 マンティコア五頭を討たれ、しかしフォケナスは顔色ひとつ変えることはなかった。


「しゃべらなければどうするつもりですか?」


「不本意だが痛い目にあってもらう。しゃべりたくなるまで」


「そうですか。痛いのは嫌いなのですが、供物を持ち帰るのに時間がかかるので、あんまりノンビリできないのですがね」


「そこのサラマンダーと、あんたのペットがどうなったか。見えないわけでも、見えてなかったわけでもないだろうに」


 ウィルは視線で、召喚が維持されている二十五体のサラマンダーと、それに焼き殺された五頭のマンティコアの焼死体を示しながら言う。


「そちらは見えていても気づかないみたいですね。私はこう見えても強いし、何よりゴッズ・ホルダーですよ」


 ゴッズ・ホルダー。神意保持者と呼ばれる者は、神職者の中でも希少かつ至高と称えられ、教皇や教主のような教団のトップすらはばかる存在なのは当然だろう。


 信仰する神と最も近しいとされるゴッズ・ホルダーは、そう呼ばれるとおりに神との面識を持つが、何よりその際に神に認められ、神の一部をその身に賜っているのだ。それが正に至高の名誉であるのは、神に祈った者なら想像に難くない。


 神に会い、認められ、その一部を賜り、ゴッズ・ホルダーとなった者は、その信仰が神意に沿う限りは神と同じく不老不死の存在となる。ゆえに、本当にフォケナスがゴッズ・ホルダーならば、見かけはどうあれ、百年千年と生きていてもおかしくない。


 ただし、ゴッズ・ホルダーだからと強いとは限らない。ゴッズ・ホルダーは神に気に入られたというだけであって、強いから気に入られたというわけでは、必ずしもないのだ。


 また、ゴッズ・ホルダーは死ぬことはないが、痛覚は通常に機能している。つまり、ゴッズ・ホルダーは死ぬだけの傷を負っても死なないので、生命の許容量以上の傷や痛みを体感することも可能なのである。


「あんたは魔獣神、邪神に気に入られたのであって、オレらが崇める太陽神や地母神に気に入られたわけじゃない。むしろ、加減を考えずに痛めつけられる分、魔獣神に感謝すべきかも知れないな」


「そこまで言うのなら、仕方ないですね。おとなしくする気はありませんから、少しおとなげない対応させてもらいましょう」


 やれやれと言わんばかりに降伏勧告を拒んだフォケナスは、心を鎮めて崇める神、魔獣神へと祈り、呼びかけ、


「魔獣神よ! 我は今、人を越え、獣を越え、神の域に立ちまする!」


 神に祈り、呼びかけ、その力、御業をもたらす存在、御使いは、決して珍しいものではない。


 神官が二十人もいれば一人は御使いであるとされ、セラも御使いの一人である。


 だから、フォケナスが御使いであっても奇異なことではなかった。


 しかしながら、フォケナスの全身が黒い獣毛に覆われ、両手の爪が鋭く伸び、牙が生え、頭部が犬のそれへと変化していくと、ウィル、ユリィ、リタの表情から一気に血の気が引いていく。


「……ライカンスロープ!」


 セラが的外れな驚きの声を上げるが、彼女が間違うのも仕方ないだろう。


 ライカンスロープとは、獣人に変身できる能力を有する者を示す総称で、ライカンスロープの中でも狼人になれる者はワーウルフ、虎人になれる者はワータイガーと呼ぶ。


 普通の獣人族と違い、ライカンスロープの獣人の姿は生まれながらのものではなく、あくまで能力によるものだ。だから、ライカンスロープは種として確立しておらず、ライカンスロープが成した子がライカンスロープと限らないのである。


 また、普通の獣人とライカンスロープが違う点は、後者には普通の武器が通用しない点だ。銀か魔法の武器、あるいは魔法でしかライカンスロープは傷つけることができない。


 もし、フォケナスがワードックならば、獣人のように鋭い牙と爪を備え、高い身体能力を得た上、普通の武器では傷つくことはないが、そんなものなら恐れる必要はない。


 ウィルは槍先に何かしらの力を宿せば、ユリィの偽りの魔剣ならば、リタの精霊魔法、また今、召喚しているサラマンダーならばライカンスロープを傷つけ、倒すことは可能であり、容易であるからだ。


「……いや、これは超獣人形態だとっ」


 ウィルが口にしたのは、魔獣神を奉じる御使い、それもこれまでほんの数人しか使う域に達することができなかったものだ。現在の魔獣神の大司教すら使うことのできないほどである。


 単に獣人に変身するだけの御業ではない。今のフォケナスは、仕える神の能力をほんの一部ながら使うことができるのだ。


 限定的ではあるが神の力。それに抗することができねば敗れるしかない窮地に、今のウィルたちに陥った。


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