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こいつらを見捨てるのは、もっとごめんだ

 獅子の体からコウモリのような羽が背中に生え、サソリの尾を持ち、頭部は老人のものだが、その口に並ぶ牙、そして噛む力は獅子のそれより鋭く、強い。


 空を舞い、牙と爪は鋭く、サソリの尾の持つ毒性はかなりのもの。さらにマンティコアの知能は人よりも高く、魔法を使えるほど。


 加えて、その性質は狡猾で邪悪。それが魔獣マンティコアだ。


 そんな魔獣を五体も従えるのは、黒い神官服をまとい、異形の獣を象った聖印を首から下げる、闇の五大神の一柱、魔獣神に仕える神官であった。


 体格はウィルと変わらぬ程度。年は若いようにも見え、老いているようにも見えるので、外見からは判断が難しい。顔立ちは凡庸で聖職者独特の威厳に乏しく、頭はアフロヘアーという奇抜さ。


 だが、マンティコアを、しかも五頭も従え、さらに魔獣神の神官、邪神を崇める者だ。ウィルは警戒しつつ荷馬車をゆっくりと停止させ、その左右でユリィとリタは足を止めて身構える。


 警戒と緊張の色が濃く見られるウィルたちに対して魔獣神の神官は、


「ご苦労様です。私の名はフォケナス。供物は私の方で我が神の御元に届けますので、護衛の方はここで引き取ってください」


 小さく頭を下げ、穏やかに語りかける丁寧な態度ながら、口にする内容は看過できるものではなかった。


 セラと共に御者台から降りたウィルは、


「……つまり、子供たちをどうする気なんだ?」


「決まっています。我が神の欲望は満たすため、その身命を使うのですよ。そのために、ワケアリのキズモノにけっこうな額を払ったのですから。まあ、領収書は今、手元にありませんがね」


 あからさまに荷台の子供たちを生け贄すると告げられ、ウィル、セラ、ユリィ、リタは顔に嫌悪の色をにじませる。


 ただ、荷台の子供たち、商品として売り払われ、生け贄とされる当事者たちは、信じ難いほど反応が鈍い。


 子供でもフォケナスの告げた内容がわからぬわけがない。にも関わらず、すでに絶望が心を占めている子供たちは、その小さな身をわずかに震わせ、多少はざわめくだけで、恐怖も抵抗の意思も強く見せることはなかった。


「というわけで、あなた方の役割は終わりです。見逃して上げますから、とっとと去ってください」


 フォケナスはマンティコアを五頭も従えているのだ。子供を見捨てて命乞いするか、子供をエサに自分たちは逃げおおせようとするのが普通である。


 圧倒的に有利な側が見逃してくれると言っているのだから、ウィルたちとてそれに応じた方が賢いというのはわかっているが、


「……そんなことができるわけがないでしょ!」


 セラが怒りに声を荒げるが、今回ばかりはウィル、ユリィ、リタもその怒りに同調した。


「あんたがいくら払ったか知らないが、子供たちの懐には銅貨一枚も回ってきてないし、こいつらが自分で契約書にサインしたわけじゃない。つまり、あんたは間抜けにも、悪徳業者にだまされたわけだ。御愁傷様だがね」


「なるほど、そう主張しますか。ですが、このままではあなた方が御愁傷様となりますよ? マンティコアに生きたまま喰われたくはないでしょうに」


「ああ、そいつはごめんだ。だが、こいつらを見捨てるのは、もっとごめんだ」


「これは困りましたね。我が神への供物を大事にしてくれたあなた方に対して、このような返礼は不本意なんですが……仕方ありません」


 互いに退かねば、行き着く先は一つ。


 久しぶりに人肉を、そして初めて黒羽人と水精族の肉を味わえる展開に、五頭のマンティコアは歓喜の咆哮を発した。


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