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かなり評判の悪い人ですね

「何がおかしいのですか?」


 ベルリナの訪問の理由に疑問を呈したウィルの反応に、小首を傾げて疑問を口にしたのはセラであった。


 猜疑心がないのか、思考力がないのか、ベルリナの話に疑問を抱かぬ反応に、ウィル、ユリィ、リタ、そしてサリアも内心で嘆息する。


 ベルリナも苦笑を浮かべながら、


「一応、依頼は役所からのものとなっていますね。単純に考えれば、担当のお役人が引き取り手の教会と話をつけ、公金で今回の依頼を出したということになるのですが……」


「ゴブリンの発見や村の復興に着手している状況なら、そんな依頼が出てもおかしくないんだがな」


 しかし、トゥカーン男爵はこれ以上の損失を嫌っているのだ。孤児の救済にお金を出すとは考え難い。


「それ以前に、この町ではなく、離れた所にある教会との話し合いが数日でまとまるとは思えん」


「加えて、いくつもの教会ってならわかるけど、一つの教会が一度に十人も引き取るってのもあり得ない」


 ユリィとリタが口にした不自然な点は、孤児院出身だけあってセラにも理解できるものであった。


 哀しむべきことに、この世界において孤児はそう珍しくない。スウェアのような辺境の町にさえ、裏路地に足を踏み入れればストリート・チルドレンの姿を何人も目にできる。


 教会が多くとも、その一つ一つのキャパは少なく、リタの言うとおり一度に十人も引き取れる教会があるとは思えない。セラも教会で育っているので、その実状はそれなりに知っている。


 だから、ユリィが指摘した、孤児の引き取りを打診された教会がすんなりとうなずかない点も、セラにでも理解できることだ。


 ウィルたちがミューゼの村から引き上げて、まだ十日ほど。やり取りだけにも日数がかかる別の町の教会と、こんな短期間で話をまとまるというのは、たしかに「おかしい」のだ。


「けど、それは担当のお役人がどんな人物かによると思うけど?」


 システムが確立していても、それを扱うのは人間だ。


 サリアでなくとも、同じ役人といえど、重箱のスミをつつくような役人もいれば、ある程度は大目に見てくれる役人もおり、その人柄が仕事に反映されることを、大なり小なり経験している。


 もし、担当の役人が孤児たちのために奔走し、うまく教会との話し合いをすぐにまとめ、孤児たちにかかる費用も巧みに引き出せる人物なら、単なる杞憂という話になるのだが、


「……率直に言えば、かなり評判の悪い人ですね。特に、お金に汚いので有名な方です。そして、それは今回の依頼を受けた私の同僚も同様なんですよね」


 さすがにここまでくれば、セラもその「怪しさ」がわかった。


「私の思い過ごしならいいんです。子供たちが新たに生きていける場所を得られるなら、それに越したことはありませんからね。ただ、それに確信を持てない以上、どうにも気になって仕方がないので、できれば皆さんに護衛の依頼を受けてもらい、確認をしていただきたいんですよね」


「っん? ベルさんの担当の依頼ってわけじゃないのに、オレたちに意図的に受けさせることができるのか?」


 ミューゼの村からのゴブリン退治はベルリナが担当して引き受け手を探さねばならなかったから、ウィルたちに振ることもできたが、今回はそうではない。むしろ、担当する冒険者ギルドの職員が息のかかった冒険者たちに回したなら、ベルリナやウィルたちにはどうすることもできないが、


「その点は大丈夫ですね」


 ベルリナが述べるところによれば、その依頼は普通に貼り出されるので、ウィルたちが素知らぬ顔で引き受けるのも可能とのこと。加えて、取り合いになる心配もない報酬額でもあるそうだ。


 親を失った子供たちで一稼ぎしようと企む者たちは、経費を抑えて儲けを多くしようという腹積もりなのだろう。


 無論、あまりに安すぎる依頼は引き受け手がつかず、出荷の遅れにつながるが、冒険者ギルドの職員がそれに噛んでいるなら、自分のコネで適当な冒険者に引き受けさせることも可能というもの。


 ベルリナの持ってきた依頼、いや、頼み事にサリアは複雑な表情を浮かべ、次いで嘆息する。


 冒険者にとってギルドの職員とのコネクションを築き、頼み事を引き受けて貸しを作るというのは有用なことではあるが、それにしてもベルリナは頼み事を引き受けてもらうに際して、具体的な見返りを示していない。


 もちろん、ベルリナは単に気になるという程度の理由でこの話を持ってきただけであり、ギルドの一職員のたくわえなどたかが知れている。多くは望みようもないにしても、安すぎる報酬以外の見返りを多少は求めても良いはずだ。


 セラと違い、ウィル、ユリィ、リタは計算ができないわけでもなければ、打算がないわけでもない。だが、孤児である三人はこの時ばかりは同じく孤児であるセラと同じ反応、計算や打算を投げ出して選択を取った。


 四人の出自に起因する判断だ。ゆえにサリアの嘆息しこそすれ、反対できるものではなく、四人は割りがまったく合わない依頼を、頼み事を引き受けることとなった。


 ゴブリン退治や大ネズミ駆除など、まるで比べものにならない依頼を。


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