その話を置いておくとして
「とりあえず、その話を置いておくとして、今回、被害にあった村々についてお話していいですか?」
「今、あの辺りはどうなっているんですか!」
イスから腰を浮かせて情報を求めたのは、あの辺りの村の出身であるサリアではなく、セラであった。
スウェアの町から兵がやって来た際、ウィルたちはそこで引き上げたが、セラはかなり後ろ髪を引かれる思いであった。
セラはミューゼの村の生き残りを治せるだけ治したが、欠損した肉体や壊れた心はどうにもならなかった。それに体が治っても、村が受けた被害からすれば、早晩、彼らの生活は立ち往かなくなる。サリアが村を捨てたのも、それを見越してのものだ。
「そこのサリアさんには辛い話になりますが、どうにもならないのが現実ですね。見える範囲では、ゴブリンは全て死んでいるか、逃げ去ったようですが、ゴブリンの残した爪痕でどの村も破綻していて、復興など不可能な状況ですね。生き残った方々は兵に保護され、手持ちの食糧で食いつないでいますが、いずれ村から離れて流民になるしかないでしょうね」
ウィルたちにくっついて冒険者ギルドに行った際、サリアはベルリナと面識は得ている。だが、サリアの性根まではベルリナもさすがに知らない。
一応、沈痛な表情を作っているサリアだが、内心では思ったとおりというのが正直なところだ。
セラは当然、痛ましい表情を浮かべている。ウィル、ユリィ、リタもそれは同じだが、ただ可哀想と思うセラと違い、
「見える範囲ってことは、巣穴までは確かめていないのか?」
ゴブリンの大半は討たれたとはいえ、根絶やしになったわけではない。少なくとも数十匹は生き残っているはずだ。
ゴブリンの生き残りが全て他所の土地に行ったのなら、この辺りの危険は去ったことになる。だが、生き残りが山奥の巣穴に逃げ戻ったなら、またその巣穴にゴブリンの子供がいた場合、今回の惨劇が再び起きるかも知れない。
繰り返しになるが、ゴブリン一匹一匹は大したことはない。恐るべきはその数であり、数の脅威を生み出す繁殖力だ。
例え今、数が激減しようが、その数も数年で回復する。被害を受けた村の近辺だけではなく、山奥に足を伸ばしてゴブリンの有無を確認しておかねば、真の解決とは言えない。
「こういう時こそ、私たち、冒険者の出番ではないのか?」
ユリィの言うとおり、ゴブリンの生き残りが山奥に引っ込んでいるかどうかを調べるのに、冒険者、中でもユリィのような野伏ほどうってつけの者はいない。
兵士たちを山奥に派遣しても闇雲に探し回るしかないが、野伏といった野外活動のスキルを有する者なら、ゴブリンの足跡から巣穴を突き止めることができる。
「同感ですが、そのような依頼がきていないので、冒険者の出番とはならないんですね。そして、領主様は自分の兵で山狩りをする気もないみたいですね」
冒険者を雇わねば、人海戦術で山の中を調べるしかないのだが、スウェアの町の領主たるトゥカーン男爵は自らの兵を被害者の保護にしか用いていないとのこと。
「今回の最大の被害者はゴブリンに襲われた村の方々ですが、トゥカーン男爵もかなりの損失なんですよね」
領内でいくつもの廃村が生じたのだ。トゥカーン男爵にとって税収の低下は避けられないが、それだけの話ではない。
ミューゼなどのあの辺りの村々は開拓村として興ったばかりだったのだ。それが安定する前に潰れたのでは、開拓に少なからぬ資金を投じたトゥカーン男爵としてはたまったものではない。
それゆえ、トゥカーン男爵は兵に最低限の保護のみを行わせるだけとし、損失を最低限に留めようとしているのだ。無論、冒険者ギルドに調査依頼を出して、余計な支出を嫌ったのも言うまでもない。
そして、依頼が、何より金が出ねば、冒険者も動くことはない。
ともあれ、トゥカーン男爵がそのように損失にとらわれているのなら、被害を受けた村の生き残りに対する保護は本当に最低限のものでしかなく、手厚い救済など望みようはないのだが、
「さて、それでは話を戻しますね。今回、ゴブリンに襲われ、命は助かったものの、親を失って孤児となった子供たちがざっと十人ほどいましてね。ただ、彼らは少し遠くの教会に引き取られることになりましたので、その道程の護衛の依頼、良ければ皆さんに受けてもらえないでしょうか?」
「それっておかしくないか?」




