誠意を疑われるかも知れませんね
「あの、私は席を外しましょうか?」
サリアがそう言ったのは、訪ねてきたのが冒険者ギルドの職員であったからだ。
ミューゼの村に住んでいたサリアは、何度もスウェアの町に来たことはあるが、農作物の販売や運搬の手伝いであったため、さほど地理に詳しくない。不案内ゆえ、彼女はウィルたちとほとんど行動を共にしていた。
冒険者でないサリアだが、ウィルたちと共に冒険者ギルドに行ったこともあり、それ以前、今、台所に迎え入れた冒険者ギルド職員、ベルリナはゴブリンの退治を依頼した際に面識がある。
ベルリナは制服姿ではなく、地味な色あいのシャツにジーンズという服装だ。オシャレをすればするほど、映えそうな容姿からすればもったいないと感じるものの、地味な格好でないとナンパがウザいとのこと。
プライベート・スタイルとはいえ、冒険者ギルドの職員が冒険者の元を訪れて来た。冒険者と同居しているとはいえ、冒険者ではないサリアは、それゆえに遠慮したというわけだけではない。
単に、台所の広さが広さゆえ、六人いると手狭に思えるので、無関係な自分は席を外そうとしているだけであるのだ。
「いえ、それには及びません。ただ、これからする話は口外しないでもらえると助かりますね」
私事ではあるが、冒険者ギルドの職務と無関係な話をしにきたわけではないベルリナとしては、部外者には聞かせたくないのが本音だ。
しかし、自分が訪ねて来たからサリアを追い出すというのには、抵抗を覚えずにいられない。
「ということは、オレらはギルドの秘密を教えてもらえるってことかな?」
「秘密というより暗部ですね」
「……!……」
ウィルの軽口に対するベルリナの返しに、一同は息を飲む。
その五人に対して、ベルリナは頭を下げ、
「しかし、本当にすいませんでした。情報にエラーがあったとはいえ、私の都合で紹介した依頼で、ヘタすれば皆さんを死なせるところでした。無事で帰って来てくれて本当に良かった」
ミューゼの村から戻った後、冒険者ギルドに行き、ウィルたちは事の顛末を報告している。ただ、その時、応対したベルリナは生還したウィルたちの無事を喜んでも、謝罪はしなかった。
極論すれば、冒険者ギルドはあくまで仲介業のようなものだ。冒険者に提供する依頼に記載以上の危険があっても、その責任は依頼主のものであって冒険者ギルドにはないとしている。
さすがにあからさまに怪しい依頼は断るが、今回のようなギルドも依頼主も把握できなかった危険に対しては、冒険者の判断に委ねている。
依頼主とて、どのような危険があるかを把握して依頼を出すわけではなく、その調査も含めての依頼であることが多い。そして、想定外の危険を理由に依頼を断るか、追加報酬しだいで継続するかを決めるのは、冒険者の裁量による。
ミューゼなどのいくつかの村が滅びた一方、現地にいた冒険者がほとんど無事だったのは、想定外の危険を察知した段階で引き上げたからだ。
ウィルたちはその際、追加報酬による継続を選んだのだから、死んでも文句は言えないし、ベルリナも責任を感じずとも良い。が、やはり人として自分の紹介した依頼で死にかねなかったとなれば、気にせずにいられないというもの。
だから、こうして冒険者ギルドの職員として頭を下げることはできないが、ベルリナ個人として謝罪しているのであるが、
「ただ、頭を下げても、誠意を疑われるかも知れませんね。皆さんに今度は怪しいとわかっている依頼をお願いしようとしているのですから」




