自分の身は自分で守ってくれ
ゴブリンはすばしっこい怪物だが、ウィルとユリィの方が機敏さではずっと上だ。
もちろん、この二人に比べ、リタ、サリア、セラの足は遅いが、仮に五人が足並みを揃えたとしても、逃げたゴブリンを追ってすぐにミューゼの村に戻っていれば、ゴブリンたちの待ち伏せが整う前にこの焚き火に至っていただろう。
にも関わらず、ゴブリン・イグナイテッドに待ち伏せのための時間を与えてしまった、遅滞の理由は二つ。
投げた槍の内の二本と放った矢の内の十本を回収し、武装の回復をいくらか計ったから。
リタが『エア・プロテクション』の術を使い、待ち伏せ・不意打ちに備えたからだ。
風の精霊に働きかけ、飛び道具より身を守る『エア・プロテクション』の術を施した状態では、移動ができないわけではないが、あまり激しく動くと術が解けてしまうので、セーブした移動速度を心がけた結果、ゴブリン・イグナイテッドに待ち伏せのための時間を充分に与えた上に、いくらか待たせる結果となったのである。
ゴブリン程度ならばどれだけうまく隠れても、ウィルやユリィなら気配で気づくことができ、実際に弓矢を射たれる前に二人は暗がりや物陰の気配を察していたが、ゴブリンが待ち伏せの予測していたウィルたちは、念には念を入れて備えを怠ることはしなかった。
「風よ! 刃となりて敵を切り裂け! ウィンド・エッジ!」
「ハッ」
飛び出して襲いかからんとするゴブリンたちが、固まっていればウィルの投てきで一掃できたが、四方から襲いかかってきたため、ゴブリン・ウォーリアを中心に吹き飛ばした数匹以外を、リタは魔法で、ユリィは弓矢で倒して行く。
弓矢を手にするゴブリンたちは第二射を放つが、粗末なゴブリンの矢は再び不自然に五人からそれて地面に突き立つ。
「……ギエエエガッ」
弓矢が通用しないと悟ったゴブリン・イグナイテッドは、弓矢を手にする十六匹のゴブリンに武器を持ち替え、襲いかかるように命じつつ、自らも曲刀を振り上げて暗がりから飛び出し、強く悔恨の念を抱く。
ここはもう残りのゴブリンをウィルたちにぶつけ、その間に自身は逃げるべき局面だ。しかし、ゴブリン・イグナイテッドは血気にはやって前に踏み出し、
「槍先に宿れ、雷よ」
愛用の槍を自らの特殊能力で強化したウィルが、ゴブリンの頭目らしき上位個体に向かって進み出て来たために、回れ右ができなくなってしまった。
最初に飛び出して来たゴブリン・ウォーリアを含む十九匹は、残り三匹となっていたが、そこに弓矢から得物を持ち替えた十六匹が暗がりから走り出て来る。
「ハッ」
「風よ! 刃となりて敵を切り裂け! ウィンド・エッジ!」
弓矢と魔法でゴブリンを次々と仕留めていくが、
「サリア! 自分の身は自分で守ってくれ」
全てを倒しきれず、ユリィとリタは短槍を手にして、接近を許した十匹と相対した。




