これまた、予想どおりだ
ゴブリン・イグナイテッドはゴブリンはもちろん、ゴブリン・ウォーリアよりも体格と知能に優れた上位個体である。
ゴブリン・ファントムのように魔法は使えないが、それ以外は全ての面において勝っているからこそ、これだけの群れを統率でき、そしてこの群れがもう終わりであることが判断できた。
ある国でゴブリンの部隊を率いていた、そのゴブリン・イグナイテッドは、村には戦える者がほとんどおらず、町とてそう多くの兵がいないことを知っている。自分たちほどの群れなら、やり方しだいでこの辺りの村々を滅ぼし、町を手に入れることができると考え、実行に移したのだ。
実際にゴブリンたちはいくつもの村を制圧し、そこにいた人間たちをエサや孕み袋とした。だが、その中で一つの村だけは二度の襲撃でも落とせず、そして三度目の襲撃によって、ゴブリン・イグナイテッドの壮大な計画は頓挫させられることとなった。
すでにゴブリン・イグナイテッドが率いるゴブリンは、七十匹前後となっている。この数で町を攻められるものではない。
七十匹でも繁殖力の旺盛なゴブリンは、数年でまた元の数に戻るのは可能だが、それは以前のように人間の不干渉あってこそだ。
そのゴブリン・イグナイテッドは知っている。
愚かにも、人間はゴブリンが近くにても先に手を出すことがなく、こちらが先に手を出す、先制の機会を与えてくれることを。
一方で、一度でも先に手を出された人間は、山奥に逃げ込んでもこちらを狩り尽くすまで手をゆるめないことも、そのゴブリン・イグナイテッドは知っていた。
逃げて、どこか別の土地に行くしか、生き残る手立てがないことを理解しているゴブリン・イグナイテッドは、無闇に逃げ去るゴブリンとは違う。逃げるしかないことを理解しつつ、ミューゼの村をしつこく襲い続けている。
よその土地に行く前の行きがけの駄賃という意味合いもあるが、自分の野心をくじいてくれた冒険者、ウィルたちへの復讐のため、そのゴブリン・イグナイテッドは敢えて留まったのだ。
ゴブリン・イグナイテッドはゴブリンを半分に分け、一方に村人を襲わせ、自身は三十数匹と共に冒険者たちを待ち伏せした。
このような状況では、人間は慌てて自分たちを追って来るため、警戒を怠っているので待ち伏せに気づき難い。さらに念を入れて、そのゴブリン・イグナイテッドはゴブリンたちを焚き火の周りで身を隠させている。
明かりで視界が効く分、人間の警戒は輪をかけてゆるむ。だが、焚き火は夜闇の一部を照らすだけで、身を隠す暗がりなどいくらでもある。
暗い場所の方が視界の効くゴブリンが、明かりのある場所で待ち伏せしているなど、人間にとっては想定外のことであろうとゴブリン・イグナイテッドは考え、ウィルたち五人もそこまで想像せぬまま、小走りでゴブリンを追い、焚き火のある待ち伏せポイントに至り、弓矢を持つ十数匹のゴブリンから一斉射を受けた。
それと同時に、ゴブリン・イグナイテッドの号令の元、ゴブリン・ウォーリアを先頭に十八匹のゴブリンが暗がりから飛び出し、
「ハッ」
「……槍先に宿れ、破軍の力よ」
飛来するゴブリンの粗末な矢がことごとく、五人に対して不自然にそれる中、ユリィの放った矢が飛び出して来たゴブリンの一匹を仕留め、ウィルの投じた槍がゴブリン・ウォーリアと数匹のゴブリンを吹き飛ばした。
「……凄い。これまた、予想どおりだ」
穂先が炎に包まれた簡素な槍を握るサリアは、目の前の展開と戦果に目を丸くしてそうつぶやいた。




