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取るに足らぬ偽りよ!

「……取るに足らぬ偽りよ! 数多の刃を成せ!」


「槍先に宿れ、破軍の力よ」


「風の精霊シルフよ! 我が召喚に応じよ!」


 ユリィの周りに数十本の剣が生まれ、ウィルは手にする簡素な槍の穂先に力を与え、リタは十六体のシルフを召喚する。


 ミューゼの村に対するゴブリンの三度目の襲撃は、先の襲撃の三日後の夜に行われたが、ウィルたちは次の襲撃がこれまでと同程度ですむという貧弱な発想はしなかった。


 何日か時間ができたこともあり、ユリィはミューゼの村の周りにカンタンな罠を仕掛けたのだが、別段、焼け石に水という心積もりはない。


 実質的な効果は何匹かのゴブリンにダメージを与えるというものだが、重要なのは鳴子の仕掛け、どれだけ早くゴブリンの襲来を知ることができるか、であった。

 実際、鳴り響いた鳴子の報せに、ウィルたちは先の襲撃よりずっと早くゴブリンの存在を知ることができ、村の外で迎え撃つことができた。


 多数を少数で迎撃する場合、田畑が広がる村の外より家々の建ち並ぶ村の中の方が有利ではあるが、ウィルたちは今、その逆を敢えて行っているのは、前回の教訓によるところが大きい。


 数がずっと多いゴブリンを村の中で迎え撃ち、後手に回っては村人たちをフォローできるものではない。先の襲撃では村人を何人かケガさせてしまい、自分たちの手数の少なさを痛感したウィルたちは、村人を守るにはゴブリンを水際、村の中に入る前に叩くしかないと、村人たちとセラに説いたが、それは表向きなもの。


 真の理由は、先の襲撃で分散する危険性を気づいたからだ。


 不測の事態が生じてリタは精神集中を乱され、そのリタの元にウィルが行っている間に、ユリィとセラは危ない状況となっていた。


 ウィル、ユリィ、リタは最初の襲撃の時のように、互いが互いを守り合う状態の重要性を痛感し、村の外でゴブリンの大群と対峙して、足手まといと距離を置いたのだが、三人の側にはセラとサリアがいる。


 三人にとってみれば、セラとサリアも足手まといではあるが、御業の使えるセラはまったくの役立たずではない。何より、セラは仲間であるので、ウィルたちは村人たちのように見放すことなど論外というもの。


 一方、サリアは水際防衛こそ最善というウィルたちの主張を鵜呑みにせず、ウィルたちと同様、密かに手荷物をまとめて強引にここまで着いて来たのだ。


 村の外で迎え撃とうが中で迎え撃とうが、ゴブリンの数が数である。たった四人で対処できるものではなく、取りこぼしが出るのは避けられない。ウィルたちの手の回らない所で、ゴブリンの手が村人たちに伸びることになるはずだ。それを何とかしようとして無理をすれば、自分たちもゴブリンの餌食になりかねないので、ウィルたちはそのような共倒れとなるのを避けるために自分たちがバラけることはないだろう。


 それでも目の前でゴブリンの手が伸びようとしていれば、ウィルたちとてサリアを見殺しにせず、仕方なく助けるはずだ。というよりも、自らを守る手立てのないサリアには、他にゴブリンから身を守る手立てはない。


 セラと違い、サリアはまったくの役立たずではあるが、その洞察に間違いはない。ウィルたちも目の前で村人を見殺しにできない甘さを自覚しているからこそ、村の外で迎え撃つことを選び、そして強引に同行するサリアを突き放すことができなかった。


 もっとも、サリアはセラと違い、ウィルたちの途方もない実力を知らない。だから、ゴブリンの大群を目にした時、すぐに逃げ出すものと思ったが、あろうことか冒険者たちは三百のゴブリンに敢然と立ち向かった。


 当然、その正気を疑ったサリアだが、まずウィルが自分の槍ではなく、棒切れにナイフをくくりつけただけの、槍と呼ぶにはおこがましい槍をゴブリンたちに投じ、二十前後のゴブリンを吹き飛ばしたので、セラと共に目を丸くして立ち尽くす。


 ウィルの保有スキルは、槍先限定ながらそこに十八種の力を込めることができる。


 その一つである破軍の力はその名に比べれば貧弱な威力しかないが、それでも二十前後くらいは吹き飛ばすだけの威力はある。


 ただ、接近戦で使うと自分も吹き飛ぶので、投擲しての使用になるため、愛用の槍を用いていないのだ。


 棒切れにナイフをくくりつけた槍を、ウィルはもう三本、持って来ており、二投目でゴブリンの大群は一割強を失っていた。


 そこにユリィの保有スキルによって生み出された、数十という偽りの魔剣が襲いかかった。


 一撃しかもたない魔剣を大量に生み出せるユリィの周りには、数十という偽りの魔剣が突き立っている。無論、どれだけ数があろうとも、この一本一本を手に振るっていては、ゴブリンの数の前には無力であったが、数十本の偽りの魔剣はユリィの意思に応じて浮かび上がり、次々とゴブリンに突き立っていった。


 一撃しかもたない魔剣ゆえ、ゴブリンに突き立った瞬間、偽りを維持できなくなり、消えていったが、脆弱なゴブリンを仕留めるには魔剣の一撃で充分なため、ウィルとユリィのスキルでゴブリンの数は三分の二へと減じた。


 が、まだ二百近いゴブリンがおり、それらはゴブリン・イグナイテッドの命令でウィルたちに襲いかかったが、リタの保有スキルの効果で召喚された十六体のシルフが、召喚者の命令に応じてウィルたちを守り、近づくゴブリンを強風で吹き飛ばし、風の刃で切られ、その接近を阻んだ。




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