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二十丁は上がったかな

 古来より繰り返される光と闇の戦いは、近年、何百回目かの再燃をしていたが、今では鎮火しつつあった。


 そして、此度の戦いは闇の勢力の勝利がほぼ確定している。


 今、世界各地で勝者たる魔族が敗者たる人族を虐げている、ということはない。


 闇の勢力とひとくくりにしているが、その内には様々な派閥があるのだ。


 魔族には冷酷で残忍という者が多いが、いかなることにも例外は存在する。


 温和な性格の魔神もいれば、太陽神を崇める魔王もいる。彼らは少数派ながら、多くの邪悪な魔族に目の仇にされても、自らの信念を貫くだけの力を有していた。


 そうした少数派の中に人と魔の共存を旗印とする半魔族が現れ、此度の大戦の行方を決定づけた。


 その半魔族は闇の陣営の一員ながら人族を取り組み、その共存に努めて独自の勢力と国を築くと、闇の勢力の穏健・共存派を味方につけ、光の勢力の和平派とも手を結んだ。


 光と闇の勢力の強硬派が激しく争い、疲弊していたこともあり、かくて共存派の台頭は戦を平和的な解決に導いたが、それは魔族の改心を意味するものではない。


 邪悪だが狡猾な魔族は、時勢を見ておとなしくするのが得策と判断しただけにすぎないのだ。


 ただ、知能の高い魔族は大勢を判断することができるが、愚かなゴブリンはそうもいかない。


 治める人族への配慮などできようはずもなく、自分たちは勝ったのだから好き勝手していいという考えと行動によって、多くのゴブリンは排除されることとなった。


 平和と共存を旨とする新体制から多くの者が弾き出されて、その一部であるゴブリンがこの辺りに流れ着いた当初は、人に害を為すことはなかった。


 正確には、害を為せるだけの力と数がなく、山奥で大人しくしているしかなかったのだ。


 だが、月日が経ち、その繁殖力で数を増やし、ゴブリンたちは力をたくわえていった。本当はもっと時間をかけ、数と力を増やしたかったが、先日、その数が減る事態が生じたので、雌伏の時を打ち切りとしたのだ。


 ある意味で厄介であったのは、この一帯のゴブリンたちの中には何体かの上位固体がおり、何より戦で先兵を務めた経験があった点である。


 この一帯のゴブリンは一ヵ所に集結しようとしていたのだが、そこに冒険者たちはゴブリン退治に挑むことになった。


 ウィルたちを含む半数が空振りに終わったが、もう半数はゴブリンが大群を成そうとしているのに気づいて引き返した。


 そして、集結したゴブリンたちを目にした冒険者たちは、その数が冒険者ギルドの把握している倍以上であるのを知り、勝ち目なしと判断して、引き止める村人たちを振り払って引き上げた。


 引き上げた冒険者たちの報告で、スウェアの町ははちの巣をつついたような大騒ぎとなっているが、ゴブリンの大群のことは伝わっており、その対策は検討されている。


 もっとも、対策は話し合われているだけで、どうするかも決まっていない状況だが。


 ともあれ、半数の冒険者が引き上げた時点では、ゴブリンの大群という脅威を知る村はいくつかあった。しかし、その村の者たちはどうしようもない事態にどうするべきか話し合うだけで、他の村に報せることもしなかった。


 その間に集結を終えたゴブリンたちは、軍で教えられたとおりに五十匹で一隊を成し、一隊で一つの村に当たった。


 村に百弱の人間がいたとして、戦えるのは三分の一にも満たない。五十匹のゴブリンで充分に制圧できると計算しての編成だ。


 ただし、そこに冒険者の存在は含まれていない。それでも、ほとんどの村はゴブリンに制圧されたが、二つの村でこの計算が通用しなかった。


 その二つの村には、再度、一隊ずつ派遣し、片方の村は冒険者がいなかったので制圧に成功したが、もう片方の村はウィルたちによって再び撃退された。


 この一帯のゴブリンを統率するゴブリン・イグナイテッドは、今度は総力を以てそのミューゼという村を攻めることにしたが、そうなると一隊を差し向けるのと手間が違って来る。


 何しろ、制圧した村では五十匹のゴブリンがらんちき騒ぎをしているのだ。それでも、二日がかりで分散している各隊の集結を終え、ゴブリンの大群はミューゼの村へと進軍している。


 進軍中、あらかじめ仕掛けてあったのだろう。ミューゼの村に迫った辺りで鳴子が鳴り、罠で数匹のゴブリンがケガをしたが、ゴブリン・イグナイテッドは鼻で笑った。


 冒険者たちとの戦いや村人の抵抗で数は減らしているが、ゴブリンはまだまだ三百を数える。こんな小細工でどうにかなるものではない。


「ギギガ」


 さらに自分たちの行く手に武装したオスが一匹、メスが四匹、現れたという報告を受けても、ゴブリン・イグナイテッドは面倒くさそうに前進を命じた。


 冒険者がいようが、この数の前では為す術がないと判断し、その冒険者から一本の槍が飛んで来ても、ゴブリン・イグナイテッドの笑みは変わることはなかったが、


「はい。一丁、いや、二十丁は上がったかな」


 ウィルの投じた槍で二十前後のゴブリンが吹き飛んだ光景と威力は、ゴブリン・イグナイテッドの笑みも吹き飛ばした。



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