必要経費が安くすむ
この世界は少し前から大きな戦が各地で起こり、大量の難民が発生している。
その一部が開拓民としてこの辺りに流れ込んで来て、スウェアの町の近隣に新しい村をいくつか作った頃、新たな難民がこの辺りに流れ込んで来て、新旧の難民の間で争いが生じた。
戦で住み処を追われたのは人間ばかりではない。新たな住み処を求めてやって来たゴブリンが、スウェアの町からいくらか離れた場所に、いくつかの集落を作って人間の集落を襲うようになったので、ゴブリン退治の依頼が大量発生したのだ。
ゴブリンは成体となっても子供ほどのサイズの小鬼、亜人種だ。
その外見は醜悪、その性質は性悪。基本的に小さな群れで行動し、人里から離れた山や森の奥に住み着き、不衛生な原始的な暮らしを送っている。
繁殖力の旺盛な種なのでその数はすぐに増え、群れが少し大きくなると、部族分けを行うのだが、そうして派生した新しい群れが人里の近くに住み着くと、大抵はトラブルとなる。ゴブリンは相手が弱いと見ると、集団で襲いかかって殺し奪うからだ。
畑を荒らされた。家畜を奪われた。村人をさらわれた。そうした被害を受けた村は、なけなしの金をかき集め、冒険者ギルドにゴブリン退治の依頼をする。
ゴブリンは子供のようにすばしっこいが子供程度に非力で、その知能も低い。十や二十いようがそう手強い敵ではない。また、ゴブリン退治の依頼は村から出されるのが大半だから、その報酬は安い。ゆえに、ゴブリン退治は新米冒険者のパーティが請け負うのが常となっている。
「オレたちか請けようと思っているのは、モーグの村からの依頼だ。近いから必要経費が安くすむ」
ウィルの判断材料を聞き、セラはそれについて考える。
スウェアの町からモーグの村は、歩いても往復、半日とかからない距離である。報酬が必要経費込みであるから、近場の仕事ほど経費が安くすむ。
スウェアの町中での仕事もあるが、そうしたもので新米の請け負える依頼は、ゴブリン退治より報酬が安い。ゴブリン退治も危険度に比して割のいいものではないが、新米冒険者に選択の余地がないのが現実だ。
セラはさらに考える。
人見知りなところのある彼女は、初対面の相手と行動を共にする点にためらいを覚えるが、自分にソロでやっていけるほどの実力がないくらいの自覚はある。
ウィルは男性ではあるが年の頃は自分と同じ。しかも、同じ年頃の同性が二人もいる。
ロビーには頼りがいのありそうな年上の冒険者はいくらでもいる。ただ、厳つい髭面の戦士を前に萎縮しない自信がセラにはない。
新米の面倒を見てくれるベテランの冒険者はいなくはないが、それを自分から頼めるかと自問自答すれば、やはりセラにはその自信がない。
結局はちょっと頼りないと思っても、自分はそれ以上に頼りにならないだろうし、何より同年代の気安さや安心感が勝り、
「……わかりました。皆様の足を引っ張らないよう、お役に立てるように努めさせていただきます」