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オレたちは引き上げさせてもらおうか

 ゴブリンは陽の光を嫌うが、それは日中に動けねことを意味しない。


 もし、その意味を混同せねば、ウィルたちは雨宿りをせず、ずぶ濡れになってでもミューゼの村に戻り、ゴブリンの襲撃を許さなかっただろう。


 雨雲によって、苦手な陽の光をさえぎっているのだから、ゴブリンが日中に動いたとしても不思議はない。おまけに、激しく降る雨がゴブリンの姿を隠し、足音を消したのは、村人にとって不幸と言うしかなかった。


 かくして、村の中に雪崩れ込まれてからゴブリンたちの存在に気づいたミューゼの村は、一方的に蹂躙された。


 抵抗した一部の村の者から殺され、そうして抵抗が止むと、一部の村の者はノーセンのように逃げ出し、逃げ遅れた者たちはゴブリンの凶宴に供された。


 逃げたがゴブリンに追いつかれてなぶり殺された者は多いが、ノーセンのように助かった者も何人かいる。


 また、逃げ遅れた村人たちも、リタの召喚したウィンデーネらによって、ゴブリンたちの凶宴が中断されたこともあり、辛くも助かった者も少なくなかった。


 もっとも、辛くもであり、ゴブリンが去った後のミューゼの村で五体満足な者は、サリアやノーセンも含めて十数人程度。


 逃げ遅れて捕まった村の者の大半は、逃げられぬように足の骨を折られるか、あるいは足首を切り落とされた。そして、足の骨を折られたり、足首を切り落とされなかった村娘たちは、ゴブリンに輪姦されて五体こそ無事なだけといったありさまだ。


 結局、ミューゼの村の者でゴブリンになぶられず、犯されなかったのは、サリアと、ノーセンと違ってゴブリンの追跡をまいた四人だけであった。


 鼻や口などをその身で包むウィンデーネの攻撃手段は、相手を溺死させるまで時間がかかる。ただ、精霊であるので普通の武器では傷つかず、この集団を率いていたゴブリン・ウォーリアを含む十のゴブリンを溺死させ、残りのゴブリンが全て逃げ去ったわけではない。


 ウィンデーネが倒し、追い払ったのは村の中にいるゴブリンのみ。

この時点で、リタは水の精霊たちの使役を止め、ウィル、セラ、ユリィ、サリア、ノーセンと共に村の中に入り、傷つきながらも息のある村人たちの救護に当たったが、その最中、村の外にいたゴブリンらが戻って来た。


 追い回していた村人をいたぶり殺したか、あるいは逃げられたか、

村に戻って来たゴブリンはウィルたちの存在と行動を当然、知るよしもない。


 幸いにも、戻って来るゴブリンは二、三匹ずつ油断した様子で、しかもそれに最初に気づいたのはユリィであった。


 ユリィが二匹のゴブリンを弓矢で仕留めた後、ウィルたちは村の外に警戒しつつ、負傷した村人たちの手当てをするだけではなく、ミューゼの村の中央に運んだ。


 ミューゼの村の異変に気づいて、回れ右したゴブリンもいたのだろう。ウィルたちは一晩かけ、新たに十のゴブリンを仕留め、村人の手当てをし、生存者をどうにか一ヵ所に集めた。また、夜明け頃には、ゴブリンをまいて山の中に隠れていた四人の村人も戻って来た。


 雨も上がり、夜闇が去り、新たな朝日に照らされた時には、唖然とするしかないミューゼの村の惨状が明らかになっていた。


 一日、否、一時ほどの間にミューゼの村の人口は三十八人、ほぼ半減した。しかも、その半数以上がケガで満足に動けぬ状態だ。


 無論、セラが地母神に祈れば、ケガを治すことはできる。が、あまりに負傷者の数が多く、六人目の村人を治した時点で、精神力の尽きたセラは気を失った。


 一眠りすれば疲弊した精神力も回復し、セラは癒しの御業を行使できるようになる。しかし、それで治せるケガ人には限界があり、足首を切り落とされた者、ゴブリンに面白半分に目を潰された者、耳や鼻を削がれた者は、セラがどれだけ地母神に祈ろうとどうにもならない。そして、それはゴブリンに犯された村娘たちの心の傷も同様である。


 何より、まだまだ厳しい状況ながら、ゴブリンを追い払い、助けられるだけの村人をとりあえずは助け、一応は一息ついたタイミングを見計らい、


「そろそろ、オレたちは引き上げさせてもらおうか」


 ウィルはミューゼの村の者たちにそう切り出した。



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