急いで村に戻るべきだ
ミューゼの村の一員であるノーセンは、現在、己の不幸を痛いほど痛感していた。
雨の中、山の中を逃げ惑ったが、追いかけてくる二匹のゴブリンをまくことができなかったどころか、ぬかるみに足を取られて転んだところを、追いつかれて石斧と棍棒を何度も叩きつけられることとなった。
残忍なゴブリンはノーセンを一思いに殺すことはなく、じわじわといたぶって楽しんでいたが、それがそのゴブリンたちの不幸となり、ノーセンの不幸中の幸いとなった。
無我夢中に逃げていたノーセンは、自分がゴブリンの巣穴のあった方に走っていたことに気づいていなかったが、サリアと共に帰路に着いていたウィルたちは、二匹のゴブリンにいたぶられるノーセンの存在に気づいた時、四人の冒険者の内、三人は無言の内に連係を取って動いた。
ユリィが弓に矢をつがえながら周りを警戒し、リタが精神を集中させて精霊魔法を行使する準備を整える中、単身、飛び出したウィルはゴブリンらが身構えるより早く間合いを詰め、片方の胸に槍を突き立てる。
そして、もう片方の振るう棍棒をかわしつつ、引き抜いた槍の穂先で、今度はそのゴブリンの喉を貫く。
あっという間に二匹のゴブリンを仕留めたウィルだが、槍を構えたまま周囲に視線を走らせるが、
「……近くに他のゴブリンはいない。大丈夫だ」
ユリィがそう言いながら弓矢を下ろすと、リタは緊張と精神集中を解き、ウィルはしゃがみ込んでノーセンの容態を見る。
「……セラ」
「は、はい」
ウィルに呼ばれたセラは、その意図を察して、小走りにウィルの隣に行き、
「地母神よ! 彼の者の傷を癒したまえ!」
ノーセンに治癒の御業を施す。
「どうだ、セラ。助かりそうか?」
リタやサリアと共に歩み寄ったユリィが、負傷した村人の容態をたずねる。
「はい、命に別状はありませんし、ケガも治しました。足の骨が折られていたようですが、それも大丈夫です。手足を切断されていなくて良かった」
安堵の表情を浮かべて答えるセラ。
彼女の使える治癒の御業は傷ついた肉体を癒し、骨折までなら何とか治せる。
だが、手足を切り落とされていた場合、より高度な完治か再生の御業を用いねば治す、いや、元通りにできないが、どちらも今のセラの力量と信仰の及ぶ御業ではない。
「……ノーセンさん。いったい、何があったんですか?」
「ああ、サリアか。ゴブリンが村を襲った。かなりの数だ。わしは村の外に逃げたが、ゴブリンに追いつかれ、この様だ」
セラの御業で折られた足まで治ったノーセンは、サリアの問いに対して答えながら立ち上がる。
ゴブリンの襲撃を告げられた一同は、一様に驚くが、驚いてばかりもいられず、
「これは急いで村に戻るべきだ」
「同感。多少、危険が伴うが、サリアとノーセン氏にはオレたちについて来てもらおう」
ユリィの言葉にうなずき、ウィルは二人の村人に同行を言い渡す。
村の外に逃げたノーセンを追ったゴブリンがいたように、他のゴブリンが村の外を歩き回っている可能性がある。
ならば、サリアとノーセンをこの場に残したり、どこかに隠れるように言っても、それで安全とは限らない。
ミューゼの村の、何よりゴブリンの襲撃による状況がわからぬ以上、足手まといを承知で共に行動させる以外に、サリアとノーセンの安全を確保する方策がウィルたちには思いつかなかった。
この場に残される不安を思えば、サリアとノーセンにうなずく以外の選択肢はなく、六人は足早にミューゼの村へと向かった。




