どのゴブリン退治ですか?
用が済んだのに受付の前で陣取っているわけにもいかず、ウィル、セラ、ユリィ、リタはロビーの隅に移動した。
「酒場にでも行って、この出会いに乾杯ってやりたいトコだが、オレらもアンタより数時間先輩って新米だからな。祝杯は初仕事を終えてからにしよう」
財布に節約して三日分くらいの宿代と飯代しか残っていないセラは、ウィルの情けない切り出し方に苦笑して同意する。
「まあ、仲間になるかどうかの返答は後にするとして、同じ町を拠点とする冒険者として、改めて自己紹介をしても問題はないだろう」
覆面のせいか、くぐもった声のユリィの提案に、セラも否はない。
「じゃあ、オレからだ。武器を見れば一目瞭然だろうが、オレは槍使い、ランサーだ。それと背中を見れば一目瞭然だろうが、黒羽人だ。もっとも、生まれた時から片羽しかないらしく、飛べないランサーのウィルだ。よろしくな」
「私の名はユリィ。クラスは野伏、レンジャーだ。首筋を見ればわかるだろうが、私も人ではない。水精族だ。よろしく頼む」
「……う、うちはリタ。精霊使い、シャーマンです。そして、ヒューマンです……うううっ、滑ったよ……」
呆れ顔のウィルとユリィ、呆気に取られるセラの反応に、赤面してうつむくリタ。
この手のノリやフォローをよろしく処理できないセラは、
「えっと、セラです。地母神に仕える神官です。人間です……それから、それから……」
「いや、自己紹介なんだから、それで充分だ」
テンパってしどろもどろになっていく女神官に、助け船を出すユリィ。
「とりあえず、落ち着け。見てのとおり、私たちには回復手段がない。だから、仲間になって欲しいが、そちらもこちらに加わるに当たり、気になること、聞きたいことがあるだろう。こちらは待つから、気持ちを落ち着け、考えをまとめてくれ」
さらに、そう促され、セラは深呼吸を繰り返して、気持ちを鎮めて問うべきことを考える。
そして、最初に問うべきことを定め、
「では、お聞きしますが、共に冒険を、と言われましたが、どのような冒険をなさるつもりですか?」
「ゴブリン退治さ!」
元気良く答えながらウィルは視線を転じる。
その視線の先には掲示板、冒険者に依頼された仕事が貼り出されており、セラもそちらに目を向けて眉をひそめる。
ウィルの言うとおり、掲示板にはゴブリン退治の依頼票が貼り出されているが、
「どのゴブリン退治ですか?」
セラの言うとおり、掲示板にはその約三分の一がゴブリン退治の依頼票で埋められていた。