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すぐに動けそうにありませんよ

 夜中、ミューゼの村に戻ったウィルたちは、村長の家の玄関を叩いて、眠たそうなヴァランに途中経過を報告した。


 ただ、経験の浅い若き村長は報告を受けてもどうするべきかわからず、ゴブリンを追跡するかどうかは、村の者で話し合って決めると保留して、再びベッドに戻っていった。


 有事に備え、念のためにウィルとセラ、ユリィとリタ、交替で眠りはしたが、何事もなく朝を迎えた。


 後は村の判断を待って、どう動くかだが、これに思いの外、時間を取られてしまう。


 ベルリナが言ったとおり、皆に担がれる形で村長となったヴァランは、皆の意見をまとめることができない。本当にゴブリンがいなくなったのか、疑う声まで上がり、結局、ウィルたちが村を出たのは、朝よりも昼に近い時刻で、しかも洞穴までサリアが同行することになった。


 やっとまとまったミューゼの村の方針は、まず本当にゴブリンがいなくなったのかを確認すること。そして、村の者がウィルたちと洞穴に行き、ゴブリンの不在確認が取れたなら、ウィルたちはゴブリンの追跡をして、どこに行ったのかを調べ、可能ならさらわれた村人を取り返すことであった。


 ちなみに洞穴まで同行して確認する村の人間は、サリアである。村の年長者たちはヴァランを行かせようとしたが、そのヴァランが腹違いの妹に押しつけたのだ。


 洞穴まで同行し、その役割を終えたサリアは、そこで追跡するウィルたちと別れ、一人で村への帰路につく。


 いかにゴブリンがいないのを確認してのこととはいえ、この状況で娘一人で山の中を歩かせて、それに誰も異議を唱えないところに、ミューゼの村における彼女の立場がわかろうというもの。


「……もっと早く決めて欲しかったな。確実に雨が降るぞ、昼から」


 ユリィがつぶやくとおり、空模様と同様、ミューゼの村の人間関係の一面を目にし四人の心中はどんよりしている。


 一応、セラは気を遣い、サリアに何かと話しかけたが、彼女は会った時から変わらぬ暗い表情で、最低限の受け答えをするのみ。


 ミューゼの村からゴブリンたちのいた洞穴まで、歩いて一時間とかからない。再びリタの槍先に光の印を施して四人は、サリアと共に昨夜の悪臭をまたかぐこととなった。


 警戒して一同はウィルを先頭に進んだが、リタの掲げる短槍に照らし出されるのは、ゴブリンのいた痕跡だけ。


 大して広くない洞穴の中は見て回るのに大した時間を必要としなかったが、その短い間に雨が降り出してしまい、


「これでは追跡は無理だ」


 雨が降れば視界が効かなくなるのもあるが、それ以上に痕跡が消えてしまうので、ユリィが追跡を断念したのは当然のことだろう。


「とりあえず、雨が上がるまでここにいるしかないな。ってわけで、サリアさん。追跡が無理になったから、オレらと一緒に村に戻ろう」


 この申し出にサリアは暗い顔のままながら、目に見えてホッとした反応を見せる。


 やはり、小一時間ほどの帰路とはいえ、ゴブリンと遭遇する可能性が表情以上に、彼女の心を重くしていたのだろう。


 悪臭が立ちこめる洞穴の奥ではなく、入口付近で雨宿りをする五人は、そこに思い思いに腰を下ろし、


「……ありがとうございます」


 食携帯食糧を分けてもらったサリアが、セラに礼を述べただけではない。


「先ほどは無愛想な受け答えをして、すいませんでした」


「いえ、こちらこそ、気が回らなかったようです」


 往路のサリアは、ゴブリンが出るかどうかの帰路への心配で、頭の中がいっぱいいっぱいだったのに、遅まきながら気づくセラ。


 ただ、セラが気遣って話しかけていたのは無駄ではなく、


「ところで、ここにいたゴブリンはどこにいったんでしょうか?」


 帰路が気になっていたサリアも、それを気にしなくて良いようになって気が一気にゆるんだためか、携帯食糧を口にしながら最も気になることを口にする。


「えっとですねえ、それは……」


 もっとも、せっく話題を振られても、対応できない話題であったため、セラは救いを求めるようにウィルに視線を走らせる。


 セラの視線に気づき、ウィルは携帯食糧をかじりながら、二人の側に移動し、


「あくまで最悪の想像だが、この辺りのゴブリンが今、集結しようとしているのかも知れん」


「どういうことですか?」


 クセなのだろうが、人の顔色ばかりうかがってきたサリアは、上目遣いにウィルを見る。


 それに対してウィルは平然とした反応と口調で、


「ここらのゴブリンはおおよそ二百いるそうだ。それが一ヵ所に集まれば、必然、その一ヵ所以外からゴブリンの姿が消える。今、そうした現象が起ころうとしている」


「それってかなりマズくありませんか?」


「ああ、ヤバイぞ。早晩、それだけの群れが、どこかの村を襲うだろうからな」


 肯定され、サリアだけではなく、セラも青ざめる。


「まあ、これはあくまで最悪の想像にすぎん。他の村にもそれぞれ冒険者がいるんだ。先発、先達の冒険者はもうゴブリン退治に動いているはずだから、そうした危険を察して、ここのゴブリンたちは慌てて逃げた可能性の方が高いよ」


 二人を安心させるように、ウィルは苦笑しながらそう言う。


「ともかく、ゴブリン退治が思わぬ展開になった。ミューゼに戻ったら、他の村と連絡を取ってもらい、どんな状況か把握してもらわんといかんな。正直、どう動けばいいか、さっぱりわからん」


「けど、すぐに動けそうにありませんよ」


 セラの言うとおり、洞穴の外の雨音は激しく、完全にどしゃ降りになっており、しばらく止む気配はなかった。


 五人は結局、夕方近くに小雨になるまで、その洞穴に留まった。


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