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今、村を襲いに行っているか

 ミューゼの村はモーグの村とは別の小道でスウェアの町に通じる集落で、規模としてはモーグの村と同じくらいだが、モーグの村よりスウェアの町までは少し遠くにあり、そしてモーグの村よりずっとゴブリンの被害が酷かった。


 ベルリナから食券を受け取った後、ヴァランから携帯食糧を受け取ったウィル、セラ、ユリィ、リタは、ヴァランやサリアと共にミューゼの村に向かい、何事もなく到着した。


 もっとも、ミューゼの村は何事もなくとはいかず、畑がかなり荒らされている程度ではなく、一昨日の夜、柵の一部を壊して侵入したゴブリンたちが、壊した柵の近くにあった民家に押し入ったそうだ。


 騒ぎを聞きつけてやって来た村人たちを威嚇して近づけないようにしている間に、その家の祖父と父親を殺し、母親と子供ふたりを連れ去った状況が、ウィルたちの計画を狂わせた。


 ウィルたちがミューゼの村に到着したのは夕方までそう間のない頃合。本来なら、村で一泊して、翌早朝からゴブリン退治に動くのがセオリーなのだが、さらわれた村人の一刻も早い救出を望む村人たちに押し切られる形で、冒険者たちは夜間労働を強いられることになった。


 ミューゼの村というより、この辺りの村々はゴブリンたちが棲み着いた山の麓にある。しばしの休息と早めの夕食の間、情報収集をした四人は、その山でミューゼの村から最も近い洞穴、そこがゴブリンの巣穴と当たりをつけて向かった。


 ミューゼの村から出て件の洞穴に向かう途上、完全に夜になったので、ウィルはリタの短槍に光の印を施し、その明かりを頼りに夜の山中を進む。


 無論、夜の明かりほど目立つものはなく、ゴブリンにこちらの接近と存在を教えているようなものだが、実際問題、明かりなしに夜の山中を進めぬ以上、これはどうしようもない。


 ウィルたちは周囲を警戒し、ユリィは暗さに閉口しながらも、リタの掲げる短槍の明かりを頼りに、ゴブリンたちの足跡をたどり続けていった。


 幸いにも、何度もミューゼの村を襲ったゴブリンの足跡は夜でもわかるほど残っており、一同は件の洞穴までたどり着くことができた。また幸いにも、洞穴に着くまでゴブリンの襲撃にあわずにすんだ。


 さらに幸いにも、洞穴にはゴブリンが見張りに立っておらず、何よりも幸運なのはゴブリンと戦わずにすんだことだ。


 見張りがいないことをいぶかしく思いつつも、モーグの村のゴブリン退治の時と同じく、リタが召喚した十五体のノームを洞穴に突入させたが、モーグの村のゴブリン退治の時と違い、洞穴からゴブリンの悲鳴が上がることはなかった。


「……これは空振りだな」


 ウィルはそう思ったが、確認しないわけにもいかず、四人は洞穴の中へと踏み込んで行った。


 ウィルの予想は半ば外れ、半ば当たりと言えるだろう。


 洞穴の中には不衛生なゴブリンたちが暮らしていた悪臭が残っており、ゴブリンたちがいた痕跡はあった。ただ、痕跡だけで、ゴブリンそのものの姿はない。


 それでも四人は洞穴を探索し、ゴブリンの幼体の死体三つと、大きな血の跡、骨の小山を見つけたが、それだけだ。


 一通りの探索を終え、悪臭の立ちこめる洞穴から出た一同は、新鮮な空気を大きく吸ってから、適当な場

所に腰を下ろす。


「……どういうことでしょうか?」


「考えられる可能性は二つだな。ここのゴブリンはどこかよそに行ったか、今、村を襲いに行っているか」


 セラの質問に、ウィルはやや自信なさげに自身の考えを述べる。


「なっ! それでは、すぐに村に戻らないと!」


「落ち着け、セラ。村を襲いに行っているなら、私たちとどこかで鉢合わせになっていたはずだ。おそらく、昨日の晩にでもここから出て行ったのだろう」


「しかも、けっこう慌てて移動したようやな。死んでいたゴブリン。あれは足手まといやから、捨てたんやろが……」


 リタの言葉が歯切れ悪いのも無理はないだろう。


 飢えれば共食いさえするゴブリンに、同胞を労るという意識はない。だが、同胞を無闇に傷つけるということもしない。だから、小さいながら群れを成せるのだ。


 死んでいた幼体はまだ生まれたばかりで、マトモに歩くこともできないから、移動の邪魔になるので捨てたというのは、ゴブリンという種からすれば奇異に思うことではない。


 だが、低くとも知能のあるゴブリンは、歩けない幼体が歩けるようになってから移動する程度のことは思いつく。


 足手まといを切り捨てたというのは、そうせねばならないほど、急いで移動したということになる。


 無論、いくら考えても情報が足りない現状では答えなど出ようがないが。


「それより、さらわれた村の方はどうしたのでしょうか?」


「……移動の際に連れて行かれたか、すでに殺されたか。これもハッキリとわからん」


 言い難いそうにウィルがセラに答える。


 血の跡と骨の小山があったが、それがさらわれた村人のものかは判然としない。


 卑しいゴブリンは骨を砕いてしゃぶり、こびりついている肉片もキレイに食べる。なので、骨が人のものか動物のものかは明確にわからない。血の跡も、捕らえた動物と人間、どちらを解体した時のものかもハッキリとしない。


「では、まだ生きている可能性はあるんですね」


 そう述べたセラは胸の前で両手を組み、地母神に村人たちの無事を祈る。


 正直なところ、ウィル、ユリィ、リタは、村人たちの生存を絶望視しているが、


「ユリィ。移動したゴブリンの跡を追えるか?」


「夜が明ければ、追えるだろう。ただ、こうも暗いと無理だ」


「なら、一端、村に戻り、夜が明けるのを待つか」


 ウィルの判断は妥当なものである。


 朝にならないと追跡が難しい以上、夜明けを待つしかない。そのために村に戻れば、仮眠を取って疲労も回復できる。それにミューゼの村に途中経過を報告して、ゴブリンの追跡の是非を確認しておいた方が良い。


 ウィルの判断は正しいものであり、ユリィたちにも否はなかった。


 ただし、正しい判断が最善の結果をもたらすと、必ずしも決まっていないが。

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