分の悪い賭けとは思いませんでしたが
「……いったい、どういうことでしょうか?」
物事の裏面を察するのが苦手なセラだが、さすがにこの応接室で行われた一連の交渉に、表面化していないものがあるのを感じ取ることはできた。
「ふむ。何と説明すれば良いか。端的に言えば、ウィルがあのサリアという娘やベルリナさんにエロイことを要求しなかったこと、それにベルリナさんは感謝しているのだ」
「はい、そのとおりです」
ユリィの読みを苦笑しながら認めるベルリナ。
当然、端的なだけの説明では、セラは小首を傾げたままなので、
「ご存知のとおり、ゴブリン退治に限らず、村からの依頼は報酬が安く、冒険者はあまり請け負おうとしません。ですが、依頼した村からすれば死活問題に関わるので、どうにか冒険者に請け負ってもらって解決せねばなりません。そのために良いのは報酬の上積みですが、金銭的に余裕のある村は少ないので……」
「まさか……」
「残念ですが、そのまさかです。同性としては憤慨ものですが」
セラの想像をため息まじりにうなずき、肯定するベルリナ。
「金が払えなきゃ、体で払ってもらおうかってやつやね」
リタが見も蓋もなく言うとおりなら、ヴァランは妹を同席させただけではなく、冒険者に抱かせるために同伴したことになる。
冒険者と依頼人の裏事情の一つを知ったセラは顔を真っ赤にするが、ギルド職員としてそうした裏側を幾度なく傍観してきたベルリナは、
「ただ、体で払うから、払う金をまけてくれ、という村もありますので、皆さんも気をつけてください」
「ああ、気をつけよう。そのような兆候が見えたなら、ウィルのをへし折ることにする」
警告に淡々と答えるユリィと長いつき合いのウィルは、それが冗談でないのがわかっているので、生つばを飲んで恐怖に震える。
「もちろん、ベルリナさんに不埒なマネをしようとした場合も、私が責任を以て再起不能とするから、安心してくれ」
「頼もしいですが、あまり過激なことをしないでくださいね。あと、私はベルと呼んでもらって構いませんよ。だから、こちらもユリィでいいですか?」
「呼び捨てにしてもらっていいが、こちらは年下なので抵抗がある。なので、ベルさんと呼ばせてもらおう。では、ベルさんに免じて折るとまでいかず、私たちでは味わうことのできぬ痛みを味わせるくらいにしよう」
「ハハッ、そいつはキツイな。それじゃあ、魅力的なベルさんを前にナンパもできないってことになる。せっかく、お願いを聞いたというのに」
乾いた笑いを浮かべるウィルのセリフで、セラもやっとその点に気づく。
ベルリナは深くため息をつきながら、
「ギルドで受付をしていると、冒険者方によくナンパされるんですよね。やんわりと断っても、しつこい人もいて困るんですが、それよりも、そういう方にギルドから頼み事をする時が、一番、困るんですよね」
ギルドの指示や業務で、冒険者にお願いや頼み事をするのも、ベルリナの仕事の一つだ。
このような時、頼み事をするベルリナの立場は弱いので、冒険者からパーター的にデートや会食やらを申し込まれる。
デートを断って頼み事を冒険者に断られたら、ベルリナは上司から叱られてしまう。なまじ美人なだけに、ベルリナはこの手の苦労に事欠かないので、
「たぶん、もう一組、ゴブリン退治を頼んだパーティも、女がいる連中を呼び出したんじゃないか」
「はい。そのパーティのメンバーの女性は、リーダーの恋人だったので、何とかうまくいきました」
恋人がいる前で村娘を抱かせろと言えるわけもなければ、ギルドの女性職員を口説くわけにもいかない。
「ただ、あなた方のパーティに関しては、一か八かという心境でしたね。分の悪い賭けとは思いませんでしたが」
冒険者になって日が浅いウィルたちのことは、ベルリナもそう詳しく知らなかった。ただ、その男女比に加え、普段の様子を見ている限り、タチの悪い冒険者とは思えなかったので、彼女は新米四人に白羽の矢を立てたのだ。
「ともあれ、今回は助かりました。これは心ばかりのお礼です。どうぞ、皆さんでランチでも楽しんでくださいね」
軽く頭を下げつつ、ギルド併設の酒場で使える食券を人数分、差し出すが、
「え~、そんなものより、キレイなお姉さんともっとおしゃべりがしたいな」




