死体を焼きたいんだ
肉食動物が視界に入ったからといって、草食動物は即座に逃げるとは限らない。
肉食動物が近づいて来る状況で草を食み、しかし襲いかかって来ても逃げられる距離で逃げ出す。
大ネズミは雑食だが、襲われる側にある時は、間合いを計って逃げて行く。そして、カイムは無論のこと、間合いを取られて逃げられれば、機敏なウィルやユリィでも追いつくことはできない。
だから、ウィルは小石を当てて大ネズミの動きを鈍らせてから仕留めた。さらにユリィも、リタの投げた小石が命中した大ネズミを短槍で串刺しにしていた。
「おおっ」
廃屋に踏み込んで一時間と経たぬ内に、大ネズミを二匹も殺した戦果に、コラードたちは感嘆の声を上げた。
「凄いな、兄ちゃんら。この調子でどんどんいってくれ」
現金なもので、コラードは機敏を良くして発破をかけてくる。
「こっちもそのつもりだ。そのためにも、要らない廃材があったらくれないか?」
「そいつは構わんが、どうするつもりだ?」
解体した廃屋の木材などは捨てずに売り払われるが、腐った廃材やカビの酷い木材などはさすがに捨てるので、コラードはそんなものをどうするかわからず、首を傾げた。
「この大ネズミの死体を焼きたいんだ」
「わざわざ焼く? そこらに捨てればいいだろうが」
この世界の衛生観念は低い。糞尿はちゃんと捨てるが、動物の屍やゴミはそこらに捨てても気にしない。カイムたちも仕留めた大ネズミを適当に捨てている。
「大ネズミ、肉を焼く臭いを立てれば、大ネズミたちを誘き寄せることができる。屋根裏にいられたらどうしようないから、とにかく大ネズミを誘い出さないと話にならないんだ」
「ほう、なるほど。そいつはうまい手を考えるもんだ」
コラードは感心し、労働者たちに売れない廃材を集めさせ、それで火を焚き、大ネズミの死体ふたつを放り込む。
廃屋の風上で焚き火をし、臭いが伝わり易いようにしつつ、さらに廃屋から距離を取った上、コラードたちに見張りを頼んで火事にならないようにも配慮もする。
それらの準備を終えてから、ウィルたち四人は二手に分かれて再び廃屋の中に入って行く。
期待に満ちたコラードたちの視線を背中に受けながら。




