私もよくやりました
ゴブリン退治より安い大ネズミの駆除を、現在、六人の冒険者で請け負っていることになる。
ウィルの提案は、それを六等分するのではなく、各パーティが大ネズミを仕留めた数で配分するというものだ。
仮に大ネズミが十匹とする。それをウィルたち四人が五匹、カイムたち二人が五匹、仕留めたならば、報酬の半分はカイムたちのものとなり、残りの半分はウィルたちのものとなる。
この提案をするに当たり、ウィルはすでに倒した二匹もカウントするという譲歩を示した。
これは単純にこいつらと六等分するのがバカらしいというだけの話ではない。
カイムたちが頼りにならないのは明白。ヘタに馴れ合うより、距離を置いた方がいいと判断したのだ。
仲間意識を持たれ、行動を共にすれば足を引っ張られ、邪魔になるのは確実だが、それだけではない。
この依頼の目的は金ではなく、コネである。コラードや労働者らとの親交を得て、深めるのが狙いだ。それだけよそ者にとっては、地元民との交流は貴いものなのだ。
期待外れだったカイムたちに、当然、コラードたちは良い感情を持っていない。そのカイムたちと仲良くすれば、コラードたちに自分たちも同一視されかねない。
さらにカイムたちを競争相手とし、それに勝ってカイムたちを引き立て役とすれば、相対的な効果でコラードたちに感謝してもらえる公算が高い。
昼飯後、ウィルとセラ、ユリィとリタの二組に分かれ、四人は大ネズミの姿を求めて、廃屋の中に踏み入って行った。
明かり取りの窓もあれば、天井や壁に穴や隙間があるので、屋内は薄暗いが灯りを必要とするほどではない。
一歩ごとに舞い立つ床のホコリに顔をしかめながら、セラの前を進むウィルは、左手で槍を持ち、右手の中には小石が二、三個、握られていた。
廃屋の中を歩き回るウィルとセラは、一軒目には大ネズミの姿をなかったが、二軒目に踏み入って奥に行こうとしたウィルの足が不意に止まる。
「……どうしまし……」
反射的に足を止めたセラは問う途中、奥の部屋に通じる戸口から半分、身をさらしてこちらをうかがう大ネズミの存在に気づいた。
後一歩でも近づけば、大ネズミは逃げるだろうから、ウィルは足では右手を動かした。
「ギィィィ……」
悲鳴を上げて戸口でもがき苦しむ大ネズミを、駆け出したウィルは槍で突き刺す。
槍で貫かれた大ネズミは動かなくなり、
「……いったい、どうしたのですか?」
「石投げをしただけだ」
「あっ、なるほど。私もよくやりました。ウィルとは違うやり方ですが」
その答えに得心するセラ。
石投げはこの世界で最もポピュラーな遊びで、大半の子供がこれで遊んでいる。
その名のとおり何人かで石を投げて競う石投げは、ポピュラーな遊びゆえに数多のローカルルールが存在する。
セラがよくやった石投げは、何人かでどれだけ石を遠くに投げられるというものだが、ウィルらがやったのは、的を作ってそこに石を当てるというものだ。
大ネズミを見つけても、足で追っては逃げられる。だから、小石をぶつけて、大ネズミの動きを鈍らせてから仕留めた、と考えたセラだが、
「……あれ?」
それが外れではないが完全な当たりでもないので、小首を傾げる。
彼女が首を傾げたのは、大ネズミにぶつけた小石が床に転がっておらず、
「えっ!」
驚いたのは、小石が大ネズミの鼻を潰してめり込んでいたからだ。
「っん? ああ、セラのトコとやり方が違うのか」
言いつつ、ウィルは壁に小石を投げ、
「なっ!」
小石が壁にめり込んだ光景に、セラは目をむく。
「オレんトコは、薪なんかを的にして、どれだけ深く穴をうがつかを競うって遊び方だったんだ」
それはすでに『遊び』の範疇ではない。
「うまいヤツになると、薪を貫いたり、真っ二つにしたりしてたな」
「ユリィとリタもそれを?」
「オレとどっこいどっこいだから、大したことはないぞ」
正直、フツーの孤児院で育ったセラからすれば、これで大したことないのなら、ウィルたちの孤児院で大したことがあるのが、どのレベルになるか想像もつかない。
「じゃあ、ユリィたちと合流するか」
大ネズミを槍で刺したまま、ウィルは廃屋の玄関へと踵を返した。




