よろしくお願いします
元気のいい少年のものと思われる声がかかり、セラがそちらを振り向くと、声で連想したとおりの少年がそこにいた。
年の頃はセラと同じくらいだろう。黒髪黒瞳、中肉中背、顔立ちはまだまだ幼さが目立ち、大人びれば二枚目という、今も悪くないが将来はさらに有望なもの。
ただ、将来はどうあれ、今は駆け出しの冒険者なのだろう。その装備は中古らしき槍と革の鎧だった。しかも、革の鎧の背中の一部分が破れているが、そこから黒い片翼が出ていることを思えば、仕方のない破損だろう。
黒羽人。
人に酷似した種で、唯一の違いが背中に生えた一対の鳥のような黒い翼である。
背中の翼は伊達ではなく、黒羽人は短時間なら空を飛ぶことができるが、この少年のように片翼が欠損していては、従来の飛行能力など望むべくもない。
片翼の無い黒羽人の少年がオレ「ら」と言ったとおり、彼の後ろには二人のパーティメンバーがいた。
どちらもセラと同じくらいの年頃の少女で、しかも片方は少年ともセラとも異なる種族であった。
青い髪を短くした、セラよりも透明度の高い青い瞳の少女は、背は少年とあまり差がないほど高いが、体型はセラのような細身だ。
革の服を身にまとい、弓と短槍を背負い、腰に矢筒を下げている点はまだいいが、問題は顔の半ばを覆う布切れであろう。
もっとも、その首筋を覆う水色の鱗を見れば、彼女が顔を隠すのは当然のことだ。
水精族。
耳の尖端がわずかに尖っており、首筋など身体の各所に水色の鱗がある他は、人間と変わらぬ姿だが、種としては妖精にカテゴライズされる。
元来は水辺に暮らす妖精の一種で、その鱗は伊達ではなく魚のように泳げ、息ができる。
そして、エルフや人魚が美しいように、水精族も人間離れした美貌の持ち主ゆえ、この少女は顔を隠して無用なトラブルを避けようとしているのだろう。
三人組の最後の一人は、暗緑色の瞳に茶色の髪を三つ編みにした、顔立ちは悪くはないが地味な印象の拭えない娘で、小柄で細身、気弱そうなところまではセラに似ていた。もっとも、背中に短槍をくくりつけている点、革の服を着込んでいてその胸元がかなり膨らんでいる点は、セラと異なるが。
「紹介が遅れたな。オレの名はウィル。後ろの怪しい方がユリィで、ちんちくりんな方がリタだ。よろし……うげっ」
背後から怪しい奴とちんちくりんな奴に蹴りを入れられる。
「え~、私はセラです。よろしくお願いします」
蹴り倒された少年と、蹴り倒した少女たちに、セラは戸惑いながら頭を下げた。