ゴブリン退治よりずっと有益だ
冒険者の生活というのは、色々と支出が多い。
宿屋暮らしで、自炊しないのでエンゲル係数も高い。
特に生死を分かつ装備に金をかけないわけにはいかない。
新米冒険者の四人組、ウィル、セラ、ユリィ、リタは、元々、元手がすくないこともあり、初仕事の報酬を得た翌日の朝から、冒険者ギルドの掲示板の前で依頼票とにらめっこしていた。
スウェアの町の冒険者は彼らだけではないので、依頼票を一通り吟味して個々に見つくろうと、他の利用者の邪魔にならないよう、ギルドの隅に移動した。
「次もやはりゴブリン退治ですか？」
スウェアの町の近辺は、余所から流れ込んだゴブリンが住み着き、いくつもの群れを成し、夏の中頃くらいから村々に害を成すようになっている。
農村からの依頼だけあり、ゴブリン退治の報酬は安く、冒険者の人気はイマイチである。
そのため、ゴブリン退治の依頼票はあまりさばけず、セラの目には先日からそう減っていないように見えた。
ベテラン冒険者には話にならない額でも、新米冒険者にとってはそうではない。モーグの村からのゴブリン退治を片づけたこともあり、セラは「ゴブリン退治？」とたずねたのだ。
もっとも、そのゴブリン退治の際、仲間の実力とスキルを目の当たりにしたセラからすれば、ウィルたちなら「トロール退治でもこなせるのでは？」と思っているが。
「セラの意見はわかった。だが、オレは大ネズミの駆除を推す」
大ネズミは文字通り子犬ほどの大きいネズミである。個体としての強さはゴブリンとどっこいどっこいだが、ゴブリンが十以上の群れで動くのに対して、大ネズミは単独行動を好むので、ゴブリンよりは危険度は低い。
ただし、危険度が劣るのに比して、報酬もゴブリン退治より劣る。依頼の中では最安値の仕事だ。
その報酬額にセラも眉をひそめるほどであったが、
「今後のことを考えれば、妥当な選択だな」
「うちは文句はない」
ユリィとリタは異存はないとうなずく。
賛成は三だが、反対とまではいかずとも、得心のいかない反応が一つあるので、
「利益とは目に見えるものばかりじゃない。目に見えない利益を加算すれば、この依頼はゴブリン退治よりずっと有益だ」
