本当に良かった
闇の領域には、当たり前のように邪神を奉じる教会がそこら辺に建てられている。魔獣神の教会があるのも奇異なことではないが、それゆえに探す方からすればえらく苦労させられた。
それでも十数年と歩き回った経験は無駄とはならず、ようやく目的の場所に、いや、目的の人物を探し当てることができた。
正解であるのは、門の所で見た黒羽人の、正確には黒羽人と人間の混血児の姿で確信している。その確信は間違えておらず、教会の礼拝堂に足を踏み入れるや、
「……久しぶりだな」
「ユリィですか」
首から下げる聖印は異なり、最後に見た時からの年月が容貌に反映されているが、そこで改宗した邪神に祈りを捧げているのは紛れもなく仲間の一人。
「まさか、改宗して、このような所に身を寄せているとは思わなかったぞ」
ようやく正確に至った冒険者の、それが偽らざる本音だ。
かつて、ウィル、セラ、ユリィが目の前から忽然と消えた時、リタはその捜索にミルフィーユを頼った。それは半魔族の魔王に借りを作る行為であったが、リタとすれば後先など考えていられなかったのだろう。
しかし、相手は神の一柱。どれだけ手を尽くしても探し出せぬ内に、七日後、解放されたウィル、セラ、ユリィ、そしてルウが元の場所に戻され、それで解決とはならなかった。
解放された直後、セラが姿を消したからだ。
この時、何日もかけて話し合った末、ユリィが独りで追うことを仲間たちに認めさせた。そうして姿を消した仲間を追い、各地の地母神の教会を回ったが、ユリィはセラを見つけることができなかった。
何年も無駄足を踏み続けた末、発想を変えて探す教会を変えたユリィは、ついに答えとの対面を果たす。
「ここなら見つからないと思ったのですけど……まさか、あれからこれだけ月日が経ったのに、まだ探して、いえ、私の事を仲間と思っているとは……」
「当たり前だ。仲間の事を心配するのは。それに私にとっては、十年二十年くらい回り道、大したことではない」
「たしかに、昔と少しも変わっていませんね」
水精族の寿命はエルフと大差はない。セラの言うとおり、ユリィの容姿は昔に見た時と変わらぬものであった。
「で、セラ。オマエは今、幸せか?」
「かつては、いえ、今も死にたいほど、後悔しています。けど、私にはあの子がいます。ですから、私は幸せです」
「そうか。私が回り道せずとも、良かったのか。オマエは変わったのだな。本当に良かった」
小さく微笑み仲間の姿に、昔との違いがハッキリとわかったユリィは、今、ようやく安堵の息をつくことができた。
本当に安心して。
その孤児院がチートすぎる件についてを最後までお読みいただきありがとうございました。
当初、考えていたのと違う展開や結末になり、物語は生き物と痛感させられました。
この経験を次に活かしたいと思いますので、その際はまたお付き合いしていただければ幸いです。