オレ、初めて見たよ
三魔王同盟。
大陸西方に強大な勢力を誇る、かつては闇陣営では一番の、半魔族の魔王が隆盛した現在でもまだ二番手を保持している。
闇陣営の中でも一、二を争う四体の魔王は互いに争うようなマネは避け、勢力の拡大に努めている。特に三魔王同盟は確実に勝てる相手のみを攻め、着実な勝利を重ねている。
派手さは欠くが堅実で小さな勝利をコツコツと重ねている三魔王同盟は、勝勢にあるだけあり、その支配領域は活気がある。その中でも主要部となれば、かなりのものだ。
闇陣営の領域に住むのは、ゴブリンなどの亜人種、ダークエルフや魔族のみならず、闇側で生きる事を選んだ人間の姿もある。多種多様さは光の陣営の都市の比ではない。
ただ、そうした多種多様さを除けば、光も闇も街の様子は変わらない。闇陣営は弱肉強食の論理を基本としているが、だからと言って強い者が無秩序に弱い者を虐げ、奪って良いとされていないのだ。
恐喝、暴行、強盗などで都市機能が阻害されると、最大の強者たる魔王の利益が損なわれる。目先の利益にとらわれ、全体というより、支配者の利益を考えられない存在は自然と排除されるから、闇の領域にも治安らしきものが生じるのである。
だが、それゆえに闇の領域を彼女は独りで渡り歩けた。思ったよりトラブルが少なく、拍子抜けしたほどだ。
オークやゴブリンなどとすれ違いながら街路を進み、街の片隅にある魔獣神の教会の門前に至ったその女性は、顔を隠していた頭巾を脱ぎ、
「へえ、水精族なんだ、お姉さん。オレ、初めて見たよ」
門柱の上に腰をかける黒い翼を生やした少年が、そんな風に驚いた声を発した。